明日は返しに行こう

 図書館から借りている本の価格を合計すると、いくらくらいになるのだろう。

超弩級高山宏「雷神の撥」と「周作人自伝」の2冊をあわせただけでも2万

五千円(税抜)でありますからね。

 このように高額な本は、図書館から借りるからなかをのぞくことができるので

ありまして、とっても自腹で買うことはできません。たぶん、当方は定価1万円を

超える本は、何冊も購入していないはずです。山口昌男さんの「ラビリントス」く

らいではないかな。

 それはそれとして、ややしばらく借りている高山さんの本は、借りていても

さっぱり読むことができず、ちょっと読んでいるのは刺し身のつまのような二段組

のところばかりで、やはり手に余ることであります。

 とにかくページに風を入れるかのように、パラパラとページをめくりながら、

すこしだけ読んで、明日は返しに行こうと思いましたです。

 ほんと二段組で収録されている文章に挟み込まれたゴシップのところはとっても

面白いのですよ。だから、そこのところばっかりをつまみ読みするのであります。

 たとえば、高山さんが師と仰ぐ、種村季弘を追悼した文章の、書き出しの次の

ようなくだり。

「『なんだタネのコピーってのは、おまえか』

 東京都立大学人文学部英米文学専攻に職が決まって、新人歓迎の飲み会の深更、

お隣の独文学専攻の教授、川村二郎氏がぼくにかけた最初の言葉である。

『タネ』と言って、それが種村季弘のことであるのが百パーセントわかり合えて

るような関係が当然という大前提あっての言葉で、でなければそれまで相手に

一度の面識もない、誇りと挑発とに満ちた洗礼の語であった。まるで後のやり

とりを将棋指しのように読みながら挑発の語を慎重にくりだす川村氏を、成長な

きぼくはついに苦手にし通し、その後も実は酒席でかなり同座しながら、ほとん

ど何も喋っていない。」

 英文専攻ではありますが、種村教授がいるというので、虎穴に入った高山さん

ですが、種村さんはその時に国学院へと転じてして、都立大学の人文を仕切って

いた篠田一士からは、高山は由良君美の子分とみられて、疎んじられるという

おまけのつきの都立大時代の思い出です。

 川村二郎さんの雰囲気は、近寄りがたいものであったのでありましょうね。

こういう時代がありました。

この文章では、高山さんは都立大学の改組のことを痛烈に批判するのですが、

その後名前だけはもとに戻ったようですが、人文学部の黄金時代は戻らないので

ありましょう。