先日に小学館文庫のトロワイヤ「仮面の商人」の巻末におかれている岩田宏
さんのエッセイを読んでいてのことです。
トロワイヤは、この作品を82歳くらいで発表し、このあとも精力的に小説
を書いているのだけど、老いてますます盛んという感じだと記したあとに、岩田
さんは、次のように続けています。
「いつだったか、85歳で亡くなった或る日本作家の最晩年の作品を読んで、
なんとも癒やしようのない惨めな気分に陥ったことがあった。まるで痴呆老人の
繰り言のようにいくたびも繰り返される同一のエピソード。穀象虫のまじった
米飯のように、そこそこに頻出する矛盾。崩れかけた文法、壊れかけた構文。
戦前から活躍していたその人の、なんと無残な凋落ぶりだったことか。これに
比べれば、老年のトロワイヤは相変わらず・・」
このくだりを見て、さてこの「85歳で亡くなった日本作家」とは誰であろう
と思ったのでありますね。手がかりは、次の四つかな。
・ 戦前から活躍していた
・ 晩年まで作品を発表していた
・ 85歳で亡くなった
・ たぶん、大物作家さん
当方が聞いた話でも、90代でも現役作家だった人は、相当のもうろくが進ん
でいて、書いたものを受け取った編集者さんは当惑したということですから、
この85歳で亡くなった作家さんの担当編集者さんは、相当に困ったことであり
ましょう。
このような原稿であっても、ボツにならずに活字になったのでありますからし
て、それがよかったのか、どうかでありますね。
気になるので、85歳で亡くなった作家さんで検索をかけたのだけども、これ
だと思う人にあたらないのですね。ほんとどなたのことでありましょう。