作中人物とシンクロせり

 昨日から村田喜代子さんの「エリザベスの友達」を読んでいます。

 「エリザベスの友達」とは、なんのことであろうと思いながら、帯にある「あ

の頃、私達は自由を謳歌していたとあるのを見て、これは高齢の女性が若い頃に

過ごした外地での暮らしを懐かしむというような物語なのかと読み進みます。

 冒頭のところに、次のようにありました。

「食堂兼リビングの大きな窓が黄昏れてくると、今年九十七歳になる母親を見に

きた千里は急き立てられるような気分を催してくる。旅の宿、病院、介護施設

どこといって定めはなく自分の家から離れて迎える暮れ方は、寂寥感が忍び寄る。」

 施設で暮らす母親のところを次女が訪ねるという書き出しのシーンになります。

車椅子で生活しているちょっと認知がはっきりとしない母親というのは、昨年の

9月に亡くなった当方の母親(認知のほうは、あまり問題にはならなかったので

すが)にすこしかぶることです。

 作中の母親である初音さんは1919(大正8)年生まれで、長女である満州

さんは、どうやら1940(昭和15)年の生まれらしく、これは作者と同年の

設定のようです。

 この長女の名前に時代を感じることです。満州美なんて名前は、この時代の生ま

れの人にしかないかもしれません。次女の千里さんというのは、「戦後八年も経っ

て、家の生活もすこしは落ち着いた頃に生まれた」とあります。

こちらの名前は、あまり時代を感じさせることはありませんですね。

 時代を感じさせる名前といえば、戦後であれば憲法から字をとったり、皇太子妃

からいただいたりとありますが、戦時中であれば尚武なんてのもありましたか。

 それで満州美さんについてですが、母親の施設に顔をだす他の入所者の家族にも

同じような名前の人がいたという話につながっていきます。

「普通、満州に縁もゆかりもない者は、こんな画数の多い感じを好んでわが子の名

に付けることはなかろう。満州美の名をめざとく見付けて反応するのは、大半は

同じ引揚者同士だろう。

 満州美もここへ通ってくるうち、いつの間にか、受付の来館者の名前の中に、満

州の二文字が入っている人物に気が付いた。男性では満州男、満州雄という名前が

二つ。女性では満州枝という名前が一人いた。」

 戦前で外地に生活をしていた人が、その地で生まれた子に、ちなんだ名前をつけ

るということですが、この小説では満州の文字が入った人が話題になっています。

朝鮮半島で生まれて高麗雄という作家もいたことです。)

 本日に新聞の訃報一覧を見ていましたら、なんと珍しいこと、そこにこの文字を

見つけることにです。

 「加賀谷満州子さん(88) 2月9日死去」とありました。88歳ということ

は1933(昭和8)年くらいのお生まれでありましょうか。

ちなみに満州国の成立は1932(昭和7)年でありますので、この方は外地で

生まれたというよりも、満州国の建国を喜んだ親が名付けた可能性のほうが強い

でありますね。これまたそういう時代であります。