野暮用から戻りまして森まゆみさんの「路上のポルトレ 憶いだす人びと」
を手にすることになりです。
森さんは当方よりも少し年下でありますが、すでにベテランで当方には貴重な
文筆家であります。好奇心が旺盛で、幅広い話題の著作を残していますが、その
ような著作のためには取材が欠かせなく、そうした活動のなかで出会った人々
についての肖像スケッチとなりますね。
取材にでかけた先で、出会った人と話をしていましたら、別の著作でテーマに
取り上げた人物の縁者であったなんてことがでていて、こういうたまたまの出会い
というのは楽しいことです。
当方は、これまでたまたま話をした人が、どなたかの縁者で、奇遇でありますね
なんて話をしたことが、ほとんどないこともあって、このような話は楽しくて、好
きであります。
森さんが語る、次のような話です。
「感染症研究者の知人は、ある病院のロビーで女性の患者さんと話が弾んだ。『あ
るヴェネツィアの島が感染症の患者を隔離する島だったことを詳しく話してくださっ
たの、ただものではなかった』と言うのを聞いて、まさか新宿の国際医療センター
じゃないでしょうね、というとまさにそこだという。それは須賀敦子といって有名
なイタリア文学者よ、現代史の研究者で翻訳も随筆もすばらしいわ。」
このときは、森さんが出会ったわけではないのですが、どこかで隣り合わせた
人と話をして、その人が「ただものではない」なんてことはなかなかないことで
す。なんといっても、ふつうは「ただものではない」というよりも、「どうだ、
おれの話は」というような人のほうが多いでありましょうから。
森さんがボランティアででかけた先で出会った女性は、森鷗外のひ孫さんで
あったとのことで、このことは話をしていたときにわかったということですが、
「鷗外の坂」という本を書いている森さんは、この奇遇に驚いたとのことです。