このところ欲しいと思う本は、ひっそりと売られているものが多くて、
そのほとんどはAmazonでは取り扱っていないものであります。
その昔の本好きたちが書籍を入手するために、かなりの労力を費やして
いたと思われますが、本の歴史においては、そちらのほうがずっと長いので
ありまして、入手するにすこし手間がかかるもののほうが、手にした後に
愛着がわくようであります。
ということで本日に届いた限定本の話題です。限定といっても、これは
豪華限定ではなくて、単に好事家むけに少部数作られて、販売されている
非商業出版物でありました。
部数は500部だそうですから、これを入手できた人は、あとあと幸運
であったなと思われることでしょう。
ということで、それの書影を掲げます。
林哲夫さんがやっていらっしゃるブログ「daily-sumus」の2006から2008年
のものから抜粋して再構成したものを「日々スムース」という紙の本とした
ものです。ネットの横書きから紙の本は縦書きで、本にまつわる話が書かれた
文章は紙で読むのが一番であります。
daily-sumusは古本系の話題が多くでるブログでは老舗でありまして、今も
続いているのですが、こうして15年も前のものを読ませていただきますと、
その時代の記録として、大変貴重なものであり、すでに鬼籍に入られた方々の
往時の姿も生き生きと描かれていることです。
本日はパラパラとページをめくってみて、林哲夫さんにしか書くことのでき
ない湯川書房主とその本づくりのくだりを引用することに。
「湯川書房の本はどこか間の抜けたところがある。たいていのプライヴェット・
プレスはこだわりが激しく、ゆとりのない精密さや完成度を求めるものだ。
ときにそれは窮屈に感じられる。そういう傾きのあまりない湯川書房の、ある
意味、不器用な本作りは、つねに未完成の新鮮さを保っていたように思う。
湯川さん自身はそれが気に入らないのか、残したい本は一冊もないと言ってお
られた。」
湯川書房の本について、このように評することができるのかと、驚きを持っ
て読むことにです。(このくだりは何度か読んでいるはずですが、あらためて
感心しました。)
上に続いてのところでは、当時塾の講師をされていた山本善行さんと三人で
話をした時の話題になるのですが、湯川書房主が、山本さんに言われたことを
記録しています。
「湯川さんが、ソムリエ氏(山本さんのこと)に向かってしきりと『塾をいっ
しょうけんめいやらなあかん』と繰り返していたのが印象に残っている。
出版や古本にうつつを抜かしていてはあかんのや、まっとうに生きなさい。
湯川さん自身を振り返っての戒めだったのかもしれない。」
2008年7月23日の記載となりますが、そのすこし前7月11日に湯川さんが亡く
なったことを受けての記事でありました。
古本ソムリエの山本善行さんは、その後、京都で古本屋を開業され、今回こ
の本を購入したのは、山本さんの善行堂からでありました。