本日に拾ってきた本はえんじ色のクロース装で、印刷は精興社、たぶんその
時代ですから函入であったのでしょう(函はもちろんついていない)。
いかにも出版にとって良かった時代を感じることです。1973年3月刊行ですの
で、そのときは学生で、この本を手にした記憶はなしであります。
ということで、本日に手にしたのは佐多稲子さんの「ひとり旅ふたり旅」と
いうエッセイ集で、版元は北洋社です。
佐多稲子さんは長命でありましたが、この本がでた時は69歳で、そんなに
若かったのかという感じです。
気になる作家さんでありますので、すこし腰を据えて読みたいと思うのですが、
「私の東京地図」でさえ、いまだ読むことができていません。すこしでも佐多
さんの世界に近づくために、読みやすいものを選んで、なじむことにしなくて
はです。
このエッセイ集にはおあつらえ向きに「私の東京地図」というものがありま
して、これはありがたいこと。このエッセイから一部を引用です。
「私は今も池之端あたりがなつかしい。ここを自分のところという気持でいる。
わずか二年あまりがその毎日毎日の内容で私に記憶されていて、まるで十年も
ここにいたような気がする。突然今までと違った生活に放り込まれた毎日が強烈
だったせいにちがいない。・・・私は『私の東京地図』という作品を書くことで、
自分という人間の形成のあとを調べようとしたものであった。・・
自分を探る上は触れ合った人々も描かねばならなかった。私はこのときやはり
哀惜の情というようなものに流れたと思う。」
これは「池之端今昔」という「東京地図」に収録の作品についてかかれたもの
ですが、やはりこれは読んでしまわなくては。