久しぶりの岩城けいさん

 岩城けいさんの新作「サンクチュアリ」を読むことになりです。

サンクチュアリ

サンクチュアリ

 

  昨年の11月末に刊行になったようですが、「ちくま」を見ましても最低限の

広告しか入っていなくて、ちょっと残念なことです。ほとんど話題になることも

ないのかな。岩城さんのウィキペディアを見ましても、この作品が刊行となった

という記載もないことです。

 オーストラリアにながらく住んで作家デビューをした岩城さんは、デビュー作

も舞台はオーストラリアでありましたが、「サンクチュアリ」もそうでありまし

て、デビュー作では主人公は日本人であったのが、この作品ではオーストラリア

人の夫婦となって、日本人で登場するのは語学の短期留学のためにホームスティ

する女性のみとなります。

 このような仕掛けになってきますと、これは日本語で書かれたオーストリア

学というようなものです。これをさらにオーストラリア語に翻訳して、かの国で

読まれるものになるのかなと、仕掛けが込み入ってきますと、そのように思った

りもすることです。

 もちろん、主人公となるイタリア系の移民の子孫である女性には、作者が投影

されていて、切実なものを抱えているのではありますが。

 一番笑ったのは、次のくだりとなります。一ヶ月ほどホームスティをすること

になった日本の女性「カレン」さんが日本から持ち込んだものについてです。

「数日前から、カレンは、黒胡椒の粒に似たものが入ったパックが煮出した茶色

い飲み物を、プラスティックのボトルに入れて冷蔵庫に常備するようになった。

食事のときにはかならずそれを取り出し、グラスに注ぐ。・・どうやらお茶の

一種のようなのだが、これが、アンガスが『馬小屋の匂い』と称するとんでもな

い異臭を放つ。」

 黒胡椒の粒のようで、煮出すものってなんだろうと、これは日本ではそんなに

珍しいものではないのだよなと思っていましたら、上に引用したところから、ず

いぶんと後ろのページに、この「馬小屋の匂い」と言われている飲み物は、麦茶

であるとありました。

 蓼食う虫ではありませんが、文化も違うのでありますね。イタリアにルーツを

持つカトリック信者の主人公、イギリスからの移民の子孫であるその夫、そして

オーストラリアで生まれた二人の息子、そこにホームスティする違った星から来

たようなカレンという女学生と、オーストラリアの中流の上の社会の人々のお話

でありました。