このブログ自体が自分のためのメモのようなものでありますので、改めて
メモというのはいかがなものかでありますが、脈絡なしに、思いつきのよう
に記していくことにします。
昨年はどのような本を読んでいたかなです。手にとった本のほとんどは、
ブログに記しているように思いますが、そのうちで小説というといくらも
ないのかもしれません。昨年出た小説で印象に残るものを中心に5冊。
・ 海の底から 金石範
「火山島」の続々編となりますが、読むのはそれなりに気合を入れなくて
は読み通すのは大変かもです。著者は、これだけ書いてもまだ書き足りない
と思っていることでしょう。済州島と朝鮮半島の関係、戦前の帝国の支配、
そしてその後の分断とかっての宗主国との関係など、今につながっている
物語です。済州島と沖縄が重なって見えてくることです。
・ 会いに行って 笙野頼子
生前にはほとんど接点がなかった藤枝静男さんを師とあおぐ笙野さんに
よる藤枝さんへのオマージュ。これを読みますと自然に森茉莉さんについて
書いた「幽界森娘異聞」を読みたくなり、金井美恵子さんの本を手にするこ
とになります。
・ 星に仄めかされて
ドイツに生活の本拠をおく作家による連作の二作目。
これをどう読むかでありますが、EUを中心にして、この作品にあるよう
な現実が普通のこととなっているとしたら、日本という国はなんて幸せで
あろうと思うのか、それともほとんど日本という国は希望の持てない国で
あるのかと思うのか、読む人の立ち位置によって、まるで違った受け止め
ができるでしょう。もちろん作中の人物は日本を捨てているわけですので
多和田さんには日本の現実はディストピアと見えているのでしょう。
・ 魯肉飯のさえずり
温又柔さんの何作目になるのでしょう。この作品は三世代の女性が登場
し、章ごとに語りの視点が移動することもあって、若い娘のモノローグの
ような作品スタイルから脱皮したように思えます。
台湾で暮らす祖母、台湾で生まれそこで日本人と結婚し、日本に渡って
来た母、そして台湾で生まれ、幼児のうちに日本に渡り、日本で育った
女性と、その人たちの生きるスタイルが重なりあうところと、重ならない
ところ。日本人の三代にも共通する話ではありますが、それに加えて、
育った国の風習の違いというのが描かれていて、深さがましているように
思います。
・ 日本蒙昧前史
磯崎憲一郎さんの小説は、芥川賞を受けたものを文庫で確保したのです
が読むことができず、それに加えて磯崎さんは保坂グループという偏見も
ありまして、手が伸びませんでした。
磯崎さんが新聞の文芸時評を担当したものを見たり、エッセイをまとめた
「金太郎飴」を読んだことなどで、すこしずつ偏見がとけてきました。
そうしたときに新聞読書欄で、この本のことを知り、図書館から借りて読む
ことになりました。
どのようにして日本社会は劣化(とはいっていないのですが)したのかと
いうことを、源流にさかのぼっていく小説でありまして、当方にとっても
同時代の出来事をいくつか取り出して、それを叙述しながら、どうしてこの
ような社会になったのかとため息をつくものであります。
大手の商社に勤務して、それなりの地位にあった作者にして、その昔と
今では社会のありようがかわっていて、それはどうしてなのか、そしていつ
ころからなのかと思うのでありましょう。