知らない世界

 図書館から「幻の探偵作家を求めて 完全版」という本を借りています。当方

にはあまり縁のない世界に関しての本でありますが、いま借りているのはそれの

「完全版 下」ということになります。

 

  ずいぶんと昔にこれの元版が晶文社からでたのでありますが、そこに長谷川

四郎さんのお兄さん(絵描きさんで、ひげのない猫を描いて有名になった方)が

登場するものですから、それで買ったわけです。

vzf12576.hatenablog.com 著者の鮎川哲也さんが亡くなったのは2002年とのことですから、それから

17年も経過してこれの完全版ということで、昨年に上巻がでて、今年に下巻

がでて完結です。

 それにしてもミステリファンというのは、本当に熱心でありますね。この

ような内容の本が出版不況というなかで世に出るのに驚かざるを得ません。

 下巻で取り上げられている人も、ほとんどが初めて名前を目にする人ばかり

でありまして、職業作家ではなくて、他に仕事をしながら探偵小説を書いてい

るかたが多くて、その方々はまさか何十年も後になって、自分のことを掘り起こ

す本がでるとは思いもしなかったでありましょう。

 ほとんど流して読んでいるのですが、本日に目がとまったのは、次の人の

ところでした。

「阿知波五郎氏の名をはじめて知ったのは、戦後二年めぐらいの頃ではなかった

かと思う。推理小説誌『ロック』の編集長宅に遊びにいったとき、面白い医学

随筆を書くひとがいるといって生原稿を見せてくれた。それが阿知波氏のもので

あった。・・・・この随筆によって阿知波氏が医師であることと、古い医書

くわしい人だということを知った。」

 この阿知波氏は楢木重太とか楢木重太郎という筆名で作品を発表するように

なるのだそうですが、ということで、鮎川さんはすでに亡くなっている阿知波氏

の遺族を訪ねて、京都は桂にお住まいの家族を訪ねることになりです。

「やがて未亡人の良子さんが来られ、その先導で住宅街を右折して、落ち着いた

構えのお宅に到着した。

 お茶をいただいた雑談すること三十分。阿知波氏の長女である西川祐子さんが

見えて正式にインタビューが始まる。祐子さんは名古屋の大学で仏文を教える教

授なのであった。未亡人と違って祐子さんは大柄で見るからにエネルギッシュ

(ま、正確に記すならエナージティクであろうが)で、男性の単身赴任者に見られ

るような哀れっぽさはみじんもない。祐子さんのお嬢さんもまた独りでバングラ

ディッシュに留学中だというお話だった。」

 鮎川さんが阿知波五郎さんについて「EQ」誌に書いたのは91年5月号とありま

すので、30年ほど前のことになります。

当方が目を止めたのは、阿知波氏の娘さんのお名前でありまして、西川祐子さん

フランス文学教授というのは、ななんと「古都の占領」ほかで著名な方ではあり

ませんか。

 ぼーっと流し読みしていても、不思議な出会い方をすることです。

古都の占領: 生活史からみる京都 1945‐1952

古都の占領: 生活史からみる京都 1945‐1952