二十五分で早わかりか

 NHKのTV番組「百分で名著」で谷崎潤一郎の作品が取り上げていて、その

作品を島田雅彦さんが解説しているのを見て、「吉野葛」を読まなくてはと

思ったのは、ずいぶんと前のことでした。

 TV番組のほうは、「吉野葛」の回だけを録画して、これを何回か見ること

になりです。一回分の放送は25分でありますから、25分でこの作品がわかれ

ば、そんな楽なことはなしです。

 そんなことで、この番組のコメント参考に「吉野葛」を読みすすめることと

しました。番組では島田さんが短い作品といっているのですが、短いといって

も、簡単にすいすいとページをかせぐことは出来ずで、いったいどのくらいの

時間手にしていたのでしょう。これまで何度か見ているはずでありますが、ほ

とんど頭にはいっていないのでありますね。

吉野葛・盲目物語 (新潮文庫)

吉野葛・盲目物語 (新潮文庫)

 

  当方が読んでいたのは、昭和33年刊の新書版全集でありますが、現在流通して

いる版よりは、ずっと雰囲気は良いものです。

 この作品に限らず、小説の読みに正解はなしでありまして、優れた小説は多くの

読みが可能となるもので、一つの読み方しかできなくて、皆が泣いたとか、感動し

たなんて作品は、たぶん薄っぺらなのでしょうね。

 なんとなくわからないのだけど、また読んでみたいなと思わせるのものを、くり

返し手にすることができれば、それが一番でありますね。

 TV番組で島田雅彦さんが寄せたコメントのなかで一番、参考になったのは、

谷崎が計画した歴史小説はなぜ書かれなかったかということについてのところで

すね。

南朝、花の吉野、山奥の神秘境、十八歳になり給ふうら若き自天王・・・

正史は勿論、記録や古文書が申し分なく備わってゐるのであるから、作者は

ただ與へられた史実を都合よく配列するだけでも、面白い読み物を作り得るで

あらう。・・わたしはこれだけの材料が、何故今日まで稗史小説家の注意を惹か

なかったかを不思議に思った。」  

 作中では作者もこのように書いているのですが、結局は最後のところでは、

「私の計画した歴史小説は、やや材料負けの形でとうとう書けずにしまった」と

書いておわるのです。

「やや材料負け」ではなくて、この作品が昭和6年に発表されていて、当時の時

代背景が南北朝南朝よりの作品をすすめるを困難にしたと、島田さんはいって

いるのですが、そうなのでありましょうか。

 この作品には多くの人の読解がありますので、花田清輝さんはどのように書い

ていたか、のぞいてみることにいたしましょうぞ。