近代出版史探索

 このところ最高気温が20度くらいでとまっていまして、すっかり涼しく

なっています。このまま秋本番となるのでしょうか。いまだ残暑のなか

過ごしている方々にはお気の毒ですが、これで秋刀魚が豊漁となればいう

ことなしです。

 注文してありました本が届いて、それを頼んでいたのは覚えているので

ありますが、どうして注文することとしたのかを失念です。まったく数日

前に読んだ本に触発されてのことなのに、これが思いだせないとは。

そんなわけで、メモ代わりのブログ記事をチェックしましたら、小田光雄

さんの「近代出版史探索」を読んで注文したのでした。

 当方は矢川さんの本は翻訳以外は、かなりのところ集めているのですが、

どういうわけか、晶文社からでたこの本は買っていないのですね。ほんとどう

して買わなかったのか、まったくわからない。

 このタイトルを見て、女流文学者についての評伝のようなものと思ったので

しょうね。書店で手にして中をのぞいてみる機会がなかったことも関係してい

るのかもしれません。

 今回、小田光雄さんの文章に「それはひとつのレクイエムであり、かっての

アルカディアの喪失」と記されているのを見て、あわてて、これは読まなくては

と思ったのでした。

 届いたので早速になかをのぞいているのですが、これが予想よりもずっと面白

いのであります。この本には、いくつもの切り口があリまして、当方は野溝さん

よりもそのパートナーであった鎌田敬止さんのほうに興味をひかれたのでした。

小田さんが「近代出版史探索」で取り上げているのも、そのパートナーさんが

出版関係者であったからでした。

 ここで、もう一回小田光雄さんの本から引用をしてみます。

昭和14年になって、鎌田は八雲書林を創立し、出版社の道を歩み始め、それま

での編集人脈を生かし、白秋を始めとする歌集や文芸書を刊行する。・・戦時下

における出版社の企業整備によって、同19年に八雲書林は武蔵野書院などととも

青磁社へと統合され、その編集長を務めることになった。

 そして戦後を迎え、昭和24年頃に白玉書房を設立し、ようやく鎌田は私たちが

知っている現代歌人の歌集や歌論、詩論集の出版社となっていくのである。

矢川澄子も『鎌田には二、三度しかお目にかかっていなかったけれど、彼について

近代短歌史のかくれた功労者、白玉書房に関しては戦後の短歌史をいろどる幾多の

名著が送り出されたところ、歌集の専門出版社白玉書房の看板はゆるぎなく、この

世界ではほとんど独走を誇っていたとのオマージュを捧げている。」

 白玉書房の名前は門前の小僧でありました当方にも身近なものでありまして、

アララギ」で土屋文明先生を尊敬した亡父の書棚には、白玉書房の本が何冊も

ならんでいるのでありました。

 上のくだりを目にしまして、亡父の書棚へと見て、鎌田敬止さんが関わる本を

取り出してきて、ぱちりとしました。(その昔は、土屋文明先生の歌集は高額で

あったのですが、最近はほとんど値がつかないのではないでしょうか。)

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青磁社からでた土屋文明「山下水」

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 このあと昭和40年代には、白玉書房は土屋文明先生の「青南集」を出して

いくことになります。

 古い「アララギ」愛好家以外には、ほとんどなにがなんだかわからない話で

ありますが、こうして白玉書房という版元に反応する人もいるということで、

小田さんのおかげで、亡父の本をひさしぶりに手にすることになりました。

 青磁社からでた「山下水」は、当方が秋田角館へといったときに、そこに

あった古本屋で求めて、父にプレゼントしたと、父のメモが残っていました。