図書館から借りておりました四方田犬彦さんの「夏の速度」を読んでおり
ました。
四方田さんが1980年に、大韓民国での仕事を終えて戻ってから書かれた
作品ですが、長らく日の目を見ることもなしで、40年の時を経て、当時この
作品を書くことを勧められた編集者さんによって、刊行されることになりで
す。
この本には、これが刊行にいたった経緯について四方田さんが書いている
のですが、これは種明かしのようなところもあるので、小説を読んでから目
を通したほうがいいでしょうね。
この小説を読んで見て感じることですが、四十年前の韓国というのは軍事
政権に支配されていたのですよね。韓国はベトナム戦争に関わっていて、若者
には徴兵制がありました。経済的には高度成長前で、言論はかなり不自由と
いう印象でした。
韓国の内情を伝える情報は匿名で発せられて、それが日本では話題になって
いました。この通信はシリーズとなって1980年頃まで続きました。
そういう時代でありましたので、すこしでも韓国内のリアルな状況を伝え
る散文には、一定の需要があったものと思われます。
とはいっても1980年の四方田さんといえば、ほとんど著作もなくて知名度も
なく、韓国滞在中の出来事を綴った地味な小説を刊行とまではいかなかった
ようであります。(四方田さんがあれこれと忙しかったせいもあるようです)
ということで40年もたってしまったのですが、今読みますとその頃の韓国
は、こんな雰囲気であったのだろうと思うことです。
この小説が万人に勧められるものではありませんが、四方田さんとか、韓国
好きの人は読んでみてはいかがであります。
この時代の韓国に滞在して書かれた本にはどんなものがあったろうかと思っ
ておりました。ちょっと思いついたものには、次のものがありますね。
本日は李良枝さんの小説集を手にして、それから李さんがソウルの大学
へ留学していた時代について描いた作品を読むことにしました。1980年から
韓国へとわたる生活にはいり、留学中に小説を書き始め、89年には芥川賞を
受けて、92年に37歳で亡くなったのですね。
李良枝さんは、梁石日さんの「終わりなき始まり」に登場するヒロインの
モデルともいわれていて、それで当方は彼女に興味を持ちましたです。