絶滅危惧または最後の

 NHKの番組宣伝を見ていましたら草彅剛さんが進行する番組で「最後の」

というのがスタートするとありました。

 番組のホームページには、次のようにあります。

「昭和・平成の時代に、私たちの日常にありふれていた『当たり前のモノ』

が、令和のいま、絶滅の危機に瀕している──

日本で、世界で、唯一その工場でしか作れない『製品』、その職人にのみ

受け継がれた「技術」、地域で愛され続けた『味』──。」

 明治までは普通にあったものが、昭和に消えたというものも多いでしょう

が、それはおいておくとして、当方が子どもの頃には、めずらしくなかった

ものが、いまでは地域から姿を消していて、日本でも姿を消しつつあると

いうことに気がつく、今日このごろであります。

 たとえば、当方の子どもの頃は運搬というと農村ではトラックよりも馬を

利用してというのが一般的でありまして、農家さんには必ず馬が飼われてい

ましたので、その関連の産業というのが普通にありました。今でいうと、

トラックの販売店、修理店、周辺機器の販売というのが普通にあるように、

馬についてもそのようなお店がありました。馬具やさん、蹄鉄やさん、それ

に馬車の修理をするようなお店。

 北海道の日高にかけては競走馬の生産が盛んですので、その関連の馬具は

売られていますが、その昔の農耕馬向けのものとはちょっと雰囲気が違い

ます。蹄鉄やさんというのも農村には必ずありました。

 このようなことを思ったのは、図書館から借りている「刃物たるべく」を

読んでいるからであります。この本のサブタイトルは「職人の昭和」であり

ます。

刃物たるべく――職人の昭和

刃物たるべく――職人の昭和

  • 作者:土田 昇
  • 発売日: 2020/04/13
  • メディア: 単行本
 

  著者は、三軒茶屋の道具屋「土田刃物店」三代目当主です。昭和の名人た

ちが作った道具を、それを使うにふさわしい職人たちに引き継いでいくこと

を生業にしているのですが、現在ではそんな道具を必要とする職人が少なく

なっていることが、この本からはうかがえます。

 それ以上に、道具に関わる職人さんの仕事ぶりに変化があることも思い

知らされます。

 ということで、その代表的な仕事としてあげられているのは、のこぎりの

目立てのことです。

「のみや鉋と違って、鋸の再研磨は使用者自身がやるものではないという

のが一般的で、目立屋に頼る方法が古くからの常識でした。当方も祖父の

時代から目立をしながら道具屋を経営してゆく形態でした。またその形態の

商店には元鋸鍛冶という経歴の者がたくさんいました。

 明治以降、木工刃物、大工道具の生産を、産地化してゆき新潟の三条市

与板町、脇野町にまかせてゆく首都の鋸鍛冶達は仕事を失ってゆきます。

徳川末期から明治中頃までは日本で最も優秀な鋸製作技術を持つ、いわゆる

名工がひしめいていた首都も、生産に専念し近代化していった産地に淘汰

されてゆきます。

 安価で充分使用に耐えるものが大量に生産されるシステムに、名工の技術

は対峙すべくもなかったのです。そして有する技術のうち、鋸を目立する

技術を生かして、人口の多い地で、目立仕事も請け負う大工道具屋となって

いったのでしょう。」

 電動工具が入る前は、すべて手作業でありました。当方の住む町にも

営林署があって、材木切り出しなどをする業者さんがいましたので、その

昔はまちなかに鋸目立という看板をあげていた店がありました。いつの間に

かその看板を見かけなくなっていますので、今市内では鋸目立という職人

さんはいなくなっているのかな。