当方が私淑した文人で、四月に命日を迎える方がお二人いて、そのうちの
お一人についてはこのブログで毎年のように話題にすることにしているのです
が(と記して、昨年はスルーしていました。こりゃいかんこと。)、もうひとかたに
ついて、しばらく取り上げておりませんでした。
今年は、数年ぶりで話題にすることになりですが、これは先月に購入した
三木卓さんの小説のおかげであります。
1989年4月13日 62歳の若さで自宅で亡くなっていたのは批評家篠田
一士さんであります。三木さんの回想禄は、主に詩人を取り上げるものであり
ますが、「日本読書新聞」編集者時代にアドバイスを受けた知恵袋としての
篠田さんを描いています。
「ぼくにとっては打出の小槌(恐れ多いいい方で恐縮だが)のような存在で、
書評を誰に頼んでいいかわからないときに、よく電話をかけて教えを乞うた。
篠田はけっして面倒くさいという態度は見せず、ほとんど即座に『それはだれ
それさんがよくやっている分野だから、だれそれさんに頼みなさいと教えてくれ
た。・・・
篠田は恐るべき博覧強記の人で、世界中の文学に関してはひとつでも知ら
ないことがあったら我慢できないというようなところがあり、専門の英文学は
もちろん、わが日本の今月号の文学雑誌に発表されたばかりの新人作家の
短編に至るまで知らないことはなかった。学び知った膨大な知識と見識(もち
ろん詩への愛も深かった)が、あの巨体のなかにこめられていると思うと、恐ろ
しいものを感じた。コンピューター時代に入る以前の個人の能力の極限を極
めた批評家・学者、といっていいだろう。」
三木さんよくぞ書き残してくださいましたです。
篠田さんが亡くなって30年を過ぎてしまいました。篠田さんの文章を読む
人も少なくなっていることでしょう。最近のように省エネが言われる時代には、
このように無駄とも思われる読書を重ねた篠田さんのことが懐かしく思いだ
されます。
比較的入手しやすい篠田さんの本には、次のものがあります。
当方にとっても導きの星であったのですよね。