その時代かな

 昨年末に図書館から借りている本の返却期限がせまっていることもあって、

まずはそれをすこしでも読むことにです。ということで、昨日から手にしていたの

は、次のものであります。

氷室冴子とその時代

氷室冴子とその時代

  • 作者:嵯峨 景子
  • 出版社/メーカー: 小鳥遊書房
  • 発売日: 2019/09/30
  • メディア: 単行本
 

  当方は氷室冴子さんの作品世界には、ほとんどなじみがないのであります

が、氷室さんが北海道(岩見沢市)出身で、札幌の藤女子大学出身ということも

あって親近感を感じておりました。

 郷土の作家ということもあって、当方のところにもブックオフで購入した文庫本

とか息子たちが残していった小説があるはずですが、これまでそれを積極的に

読んでみることもなしでありました。

 ここのところ岩見沢では氷室冴子青春文学賞というのが立ち上がって、このた

めに定期的に地元新聞では氷室さんのことが話題となっています。

こうしたことを機に氷室さんの本が、もっと読まれることになればという思いが

関係者には強かったのでありましょう。

 そうした動きを支えていた一人が、この本の著者である嵯峨景子さんであった

ようです。

 嵯峨さんは、コバルト文庫についての前著に引き続きで、コバルト文庫を主な

活躍の場として作家生活をはじめた氷室さんについて、その作品と制作された

時代というものを描いた意欲的な著作となりです。

 これを読みますと、ほんとに勉強になることでありまして、大学生でデビューして

少女小説という枠組みのなかで頭角をあらわし、日本の古典作品や先輩作家、

コミックスなどから影響を受けながら、変貌をとげていく作家の創作活動を知る

ことができます。

 たとえば、嵯峨さんが氷室さんのエッセイを読み込んだなかから読み解いた

次のようなくだり。

「氷室がこだわったのは、自分の意見を通すことではない。一緒に仕事をする男性

編集者にとって、『女の子』である自分は、対等な仕事相手として認識されていな

いということに対し、氷室は納得いかないと自らのなかにある違和感を言語化して

いった。こうした体験をもとに、氷室はフェミニズムに対する、自分のスタンスを表明

する。」

 氷室さんは、個人としては従来からの女性観をもつ母親との間で厳しい対立を

するのですが、作家として一段と低く見られる少女小説の世界の人として、また

男性優位の社会のなかでは、女性としていくつもの壁にぶつかっていたことがわか

りました。

 もちろん、最後にはがんという病との闘いを余儀なくされるのであります。

氷室さんは1957年1月11日生まれでありますので、生きていればまもなく63歳で

あります。生きていたら、どのような作品を手がけることになったでありましょう。