不愉快を楽しむ

 読んでいたらひどく不愉快になるのでありますが、それでも楽しんで読ん

でしまうというのは、なんでありましょうか。読んでいやな感じになる小説と

いうジャンルもあるようですが、そういったものを当方はほぼ読まないのです

が、例外は西村賢太さんの小説でしょうか。

 これまで何度も言及しているかもしれませんが、当方がはじめて西村さん

について知ったのは「本の雑誌」2007年11月号での坪内祐三さんの発言

でありました。

vzf12576.hatenablog.com その頃は、西村さんがこのようにメジャーな作家になるとは思ってもおりま

せんで、作品を手にしたのはちょうど当方が定年退職するときに職場の若い

人たちが万年筆と本をお祝いに贈ってくれ、その一冊が「苦役列車」であり

ました。ちょうど2011年上半期の芥川賞を受けて話題になっていたのです。

 その後、西村さんのライフワークともいうべき藤澤清造関連の作品が文庫

になったりすると手にするのでしたが、なんといっても当方が親しみを感じる

ことはない人物が主人公でありますので、読んでいるうちについつい腹をた

てていたりします。いやだったら読まなくてけっこうと挑戦的な内容であります

し、たまには愛嬌をみせたりするので、これにほだされて読み通して、やはり

不愉快になったりします。ほんといやな小説であることです。

 ということで、本日は先日に確保した「小銭をかぞえる」を読んでおりまし

た。これは小説だ、作中の主人公は作者の西村賢太とイコールではないと

思いながらですが、この作中における主人公が金策で昔の仲間のところへ

いってのやりとりや、同棲中の女性への金のせびり方などには、本当にこう

いうやりとりがあるのだろうなと思わせます。

 そう思って読んでいますと、その昔の文士で借金をしたり、それを踏み倒す

ということで逸話を残している人の多いことに気づきました。実家が裕福で

あった人もいるでしょうし、非常に懐の深い友人に恵まれた人もいましたです。

 その代表的な存在は石川啄木あたりでしょうが、金田一京助の家族のな

かでは啄木は貧乏神のように思われていたとかですからね。啄木の作品が

残らなくては単なる駄目な男でおわりであったでしょう。

 西村さんも藤澤清造全集をなんとしても完成しなくては、何をいわれるか

わかりませんですね。「本の雑誌」2007年11月号の坪内さんが内容見本が

でたのは十年くらい前といっているのですが、すでに二十年ちょっと経過して

いますね。その後は、以前よりも西村さんの懐具合は改善されたのでしょうが、

そうなりますと、それはそれで資料収集を完璧にという病が再発するのであり

ました。

小銭をかぞえる (文春文庫)

小銭をかぞえる (文春文庫)