密漁の海で

 先月に話題となっている「サカナとヤクザ」を読んでいましたら、この中で

正統派ルポとして紹介されていたのが北海道新聞記者が書いた「密漁の

海で」であります。

vzf12576.hatenablog.com 先週くらいの新聞に、近所の河口付近でウェットスーツを着て海に入って

いた男性が溺れたと救助要請があったが、助からなかったとありました。

冬の夜(20時過ぎ)に海に入っている人は何をやっているのかでありますが、

これはたぶん人目を避けて、何かをしていたのでありましょう。

 海に面した町の話題としては法を犯して漁をする(これが密漁ですね)の

は、けっして珍しいことではありません。

 これが国境のまち 根室では、もっともっとおおがかりでありまして、今は

どうかわかりませんが、ロシアも含めての違法創業がなくては水産加工とか

観光業がなりたたない状況にあったということが、「密漁の海で」には描かれ

ています。

〈新訂増補版〉密漁の海で

 この「密漁の海で」は、前半が水産業における日露関係で、後半はソ連

崩壊からの領土交渉にあてられています。

 皮肉なことでありますが、北方領土をめぐって日露が一番良い関係に

あったのは、鈴木宗男さんが大きな顔をして外務省を引き回ししていた時

のようであります。鈴木宗男さんは決して好きな人ではありませんが。

 モスクワにも駐在し、長くロシアとの交渉をおっかけている著者からすれ

ば、外務省から鈴木宗男さんの影響力を排除する過程のなかで、必要な人

材までもパージしていたということです。その結果として対ロシアの情報収集

能力が低下して、現在も後遺症に悩まされているとあります。

 この本のなかで、次の三点をあげたと記しています。

 「 1 対ロ制作をめぐる二島先行派と四島一括派の対立、

  2 外務省内の鈴木派と反鈴木派の対立、

  3 ロシアとの関係改善を望まない公安当局の警戒」

 このうえで、それでもなぜ鈴木、佐藤の両氏が逮捕までされなくてはいけ

なかったかは、よくわからないとのことです。

  結局のところ二人は、見せしめであったのでしょうか。

「政治家も外交官も、対ロ関係では何もせず、『四島を返せ』と唱えていれば

いいからだ。対ロ関係改善、領土交渉の進展にだれも真剣に取り組もうと思わ

ないし、政治家も外交官も自己保身に走らざるを得ない。領土交渉が停滞して

いる最も大きな原因は、ここにあるのではないか。」 

 とここまでが、2011年時点での著者の見解であります。

 それからずいぶんと時間がたって、ここのところ自分の代で、この問題に決着

をつけると意気込んでいる人がいて、本日もトップ会談があるようですが、さて

ウルトラCは見られるかです。   

 かの国は、ずっと前からトップは変わらずで、ほぼ独裁になっていますから、トッ

プさえクビを縦にふれば、どっと前進しそうでありますが、その可能性は極めて

低いことです。

 外務省を追われた佐藤優さんは、つぶされることもなく独自の著作家として

存在感を示していますが、「一冊の本」の2019年1月号に掲載の「混沌とした

時代のはじまり」で、「『二島先行』という選択肢は存在しない」という文章を寄せ

ています。このなかで「二島先行」に関してはメディアの認識が間違っていると

言い切っていますので、この佐藤さんの文章で言われていることを頭において、

当面の動きを見てみることにいたしましょう。