読むラジオ

 戸田学さんの「話芸の達人」を昨日に続いて話題にします。昨日に肝心の

ことを書き忘れておりました。

話芸の達人 ―西条凡児・浜村淳・上岡龍太郎―

 この本で一番感心したところについてでありますが、それは語り口調が

見事に文字(文章)化されていることでした。

 ここで取り上げられている西条凡児さん、浜村淳さん、上岡龍太郎さん

は比較的最近の人でありますからして、たぶん話芸を音声で聞いたりする

ことはそんなに難しくないと思います。

 この音声を耳で聞いたものを文字におこした時に、それが語り口調を

彷彿とさせるかどうかが問題になるのでありますね。話芸の本は、語りの

ところがうまく再現できなければ読み進めることが難しくなりです。

 当方の子どものころにラジオで聞いていた大阪からの放送にでていた

浪花千栄子さんのくだりなどのところを読んで、この戸田さんの耳の良さに

感心したのであります。この本の一番の収穫は浪花千栄子さんにとって

書かれているところであるようです(あくまでも当方にとっての話)。

ミヤコ蝶々の好んだ大阪の役者に曾我廼家明蝶浪花千栄子がいる。

ともに歯切れのよい関西弁を自由に遣った。・・大阪弁役者としてのミヤコ

蝶々は、浪花千栄子と比べるべくもない。・・喜味こいしが『浪花のおばちゃ

んの大阪弁は河内なまり」というように、浪花千栄子大阪府南河内郡

生まれであったが、今日の目からみて浪花の関西弁の遣い分けは見事で

あった。」

 このように書いたあと、映画における浪花が演じた関西弁の二作での

せりふをおこしています。ひとつは豊田四郎監督「夫婦善哉」の芸者置屋

の女将で、もうひとつは溝口健二監督の「祇園囃子」祇園の茶屋の女将

です。

 どちらも女将でもありますが、夫婦善哉祇園では格式が違いますので、

芸者に意見をするとなっても、もちろんその世界で使われる言葉は、まるで

異なります。この二作品のせりふおこしのところでは浪花のせりふが聞こえ

てきそうであります。

 戸田さんは、浪花千栄子杉村春子にならぶような存在であるのに、

そのような位置づけとなっていないのは関西の演劇界の怠慢と思っている

ようであります。

 当方が子どもの頃は、大阪の放送局が制作して全国に配信する番組は

本当に多くて、放送に関しては大阪は日本をリードしていたのでありますね。

ラジオドラマ「お父さんはお人好し」を楽しみに聞いていた当方は、浪花

千栄子についての文章を目にしますと、もっと読んで見たいと思ったので

あります。