気温あがらず

 昨日からの雨は、明け方から降りが強くなって、野暮用で出かける頃には、道路が
水浸しになりそうな勢いでした。幸いに雨は午後からはあがって、傘は要らなくなり
ましたが、気温はあがらず、それでいて霧が発生し、肌寒いことです。
 最近はあまり耳にすることもないのですが、「一億総活躍社会」というお念仏があ
りました。まったくほとんど意味もない念仏でありまして、これが唱え始められてか
ら、わたしゃどう活躍すればいいのかといわんばかりの事件が頻発しているようにも
思えます。
 本日に耳にした事件では、「元自衛官」ということが個人の氏名に冠せられていま
した。普通であればアルバイト店員とかいえばいいものでありますが、それよりも
自衛官というほうが、この事件に関しては重要であるのでしょうか。(たとえば、
銃器の扱いに慣れているとか、殺傷の訓練を受けていたとか。)
 ここでも、昨日に引用した野呂邦暢さんの年譜にあった「不景気な時代に衣食住を
保障し、人間として扱ってくれるのは自衛隊くらいのものだった。」を思いだすこと
であります。
 高校を卒業して「でもしか自衛官」となった少年たちの哀しさであります。
 こういう時は、野呂邦暢さんの「小さな物語」を静かに読むのが一番であるようで
す。「小さな物語」というフレーズは、先日に眼にした朝日新聞夕刊(6月20日付)の
野呂邦暢小説集成完結の見出しにも使われたものですが、この記事によりますと、こ
のフレーズは小説集成第四巻に収録されている短篇「朝の声」にあるのだそうです。
短いものですので、これは早速読んで見なくてはです。

冬の皇帝 (野呂邦暢小説集成4)

冬の皇帝 (野呂邦暢小説集成4)

 この巻を手にして最初におかれた作品を、ぱらぱらとめくっていたら、「飛ぶ少年」
という短編小説に、次のようにありました。
「夢のなかで少年は追われていた。叔母に、教師に、同級生のKに。そして彼らの背後
には悪意をもったどす黒い顔が地平線までひろがっていた。ただ一人を除いて全世界
の人間が少年の敵であると思われた。」
 夢のなかで、そう思った少年は、さてどのような行動をとるのでありましょう。