本日もつまみ読み

 本日もあれこれとつまみ読みであります。昨日に「シベリア抑留」を手にしていた
せいで、長谷川四郎さんのシベリアものを読んでみたくなりました。四郎さんは、外
国語に堪能なせいもあって、やはり特別な捕虜ということになりますが、そのせいも
あって復員が遅れたともいえるでしょう。 
 「シベリア抑留」には、次のようにありです。
ソ連政府の日本人捕虜に対する政治教育は、依然として問題を抱えたままであった。
第一の懸念は、収容所側と捕虜との間のコミュニケーションの不足であり、両者の仲
介機能を担うための左翼的傾向のある捕虜の選抜が試みられた。ソ連側は次の三つの
カテゴリーに当てはまる捕虜を積極的に探していたという。
 1 ロシア語を読み書きできる捕虜
 2 共産主義的傾向がある捕虜
 3 ソ連へ友好的な考えを持つ捕虜である。」
 このような観点から捕虜を選抜すれば、長谷川四郎さんがひっかからないわけがな
しでありますね。
 長谷川四郎さんも捕虜に成り立ての頃は、そんなにロシア語は上手ではなかったよ
うでありますが、ソ連が確保した日本語通訳は、さらにひどかったようであります。
収容所の日本人捕虜の前に突然現れた女性について、四郎さんの小説「アンナ・ガー
ルキナ」から引用です。
「私たちの収容所に普通の女の人が入って来ることは、それまで一度もなかったので、
彼女の最初の出現は私たちに驚異の眼を瞠らしたのだった。それはいつ暮れるとも
わからぬような、白夜のような夏の夕ぐれだったが、背の高い見知らぬ将校と連れたっ
て、彼女はやって来たのだった。」
 「普通の女の人」であれば、収容所に立ち入ることはないのですから、この女性は
わけありです。この女性は、なんであるかですね。
「見知らぬ将校は彼女を伴って大隊長知るから出て広場の上に姿を現すと、私たちを
二人の周囲に呼び集めた。といっても全員ではなく、そこらに屯している連中を呼び
集めたのだが、その将校はしばらく彼女と何やらロシア語で話していた。話しおえて、
ちょっと沈黙が来たかと思うと彼女が話し出したが、しかし彼女は将校にではなく、
私たちに向かって話しかけたのである。それは確かにロシア語ではなかった。そして
彼女の風態や容貌から何となく、それはジプシー語かしらと思われたものだったが、
聞いているうちに、その中に日本語らしいものが響いているのに、私たちは気がつい
たのだった」
 なんと、このような方が通訳をつとめるのでありましたか。