返却日近し 2

 昨日に引き続きで図書館から借りている「渋澤龍彦 ドラコニアの地平」を話題と
します。
 当方はどちらかというと矢川澄子さんのひいきとなったこともあって、渋澤龍子夫
人が前面にでてくる特集などは敬遠するのでありますが、この「ドラコニアの地平」
は、さすがにバランスよろしで、矢川さんに言及しているところもありです。
 写真家 細江英公さんと詩人 高橋睦郎さんの対談ですが、話のはじまりは、細江
さんが撮影した「由比ガ浜矢川澄子とコイコイをする渋澤龍彦」からです。
 細江さんが、高橋さんに「この写真、ご覧になったことはありますか。」と聞くの
ですね。高橋さんは、「もちろんありますよ。ぼくはこれを一篇の詩にしていますか
らね。」と答えて、高橋さんがこの写真を読み解くことになりです。
「海が背後にあるでしょう。そして男と女がいて、コイコイの勝負をしている。本当に
戯れと言えば戯れなんだけれど、でも勝負ですからね。男と女の関係というのは、愛で
あると同時に闘いでしょう?この二人がいずれ別れるという、そういうドラマチックな
ものまでがここにありますよ。向こうに高い波が寄せているじゃありませんか。」
 高橋さんの写真へのコメントには、自分でも「(結果を知っているから)あとから辻
褄合わせをしてしまっているんでしょうけど」と言っていますが、それにしても、海辺
で若い二人が砂浜にすわってコイコイをするなんてシーンは、思いっきりへんてこであ
ります。
 この写真は「由比ガ浜矢川澄子とコイコイをする渋澤龍彦」で検索しましたら、
見られますので、興味がありましたら、そちらでどうぞ。
 当方が、この写真を初めてみたのは、矢川澄子さんの本でありました。これは、いま
ほど確認してみましたら、筑摩書房からでた「おにいちゃん」の表紙をひらくと見開き
で、これが展開していました。
 矢川さんにとっても、特別な写真でありますでしょう。
 渋澤龍彦没後10年に素顔の渋澤龍彦ということで雑誌「正論」1997年2月号が特集を
組んだようで、その号に「架空の庭のおにいちゃん」という鼎談があって、そこに
矢川さんが登場です。当方は、この鼎談を採録した「ユリイカ臨時増刊 矢川澄子」で
目にすることとなりました。
 この鼎談で、「『おにいちゃん』の口絵の浜辺の写真が印象的でした。少年と少女と
いうような」と言われたのに,矢川さんが「細江さんとしても傑作でしょう。あれは
六十五年です。」と答えていました。
 矢川さんのファンには、この写真は有名であるはずですが、ひょっとして渋澤ファン
はあまり目にしていないのか、それで細江さんの「この写真、ご覧になったことはあり
ますか」ということになるのでしょうか。