待ち時間に本を

 本日は午後から歯医者へと通院でありまして、診療予約をして行きますので、待ち時
間はいくらもないのですが、待合室で読むための文庫本を持参でありました。
この歯科医院の待合室には「週刊文春」がありまして、ふだん眼にすることのないコラ
ムなどを見ることもできるのですが、やはり文庫本のほうが落ち着くかなです。
 本日持参したのは、ここのところ折をみては読んでいる岩波文庫「ランプの下にて」
でありまして、ほんと、これは興味深いことであります。

明治劇談 ランプの下(もと)にて (岩波文庫)

明治劇談 ランプの下(もと)にて (岩波文庫)

 何が面白いかといえば、この本は明治中期に岡本綺堂が書いた歌舞伎劇評をまとめた
ものなのですが、これを読むと江戸から明治という大きな時代の変化は、ほとんど感じ
とることができないからでありますね。
 なんといっても明治30年頃の歌舞伎役者で中堅以上の役者は、ほとんどが江戸時代に
生をうけた人たちでありますし、ちょっと前までは河竹黙阿弥も生きていたのでした。
 そうはいっても、この「ランプの下にて」には、明治に入ってからの新しい芝居の動
きについての記述もありです。
 その一つは川上音二郎に代表される壮士芝居であり、もうひとつは江戸時代から続い
た男女合併興行の禁止がなくなったことですね。
 江戸時代は、男は男だけで、女は女だけで芝居をしなくてはいけない規則で、歌舞伎
興行はいまも江戸時代のルールを守っていることになります。となると、宝塚というの
も、やはり江戸のルールでありますか。
 この本には、次のようにありです。
「江戸時代からの掟として、男女合併興行は厳禁されていたので、女芝居はすべて女役
者のみで一座を組織しなければならなかった。その関係上、男の俳優とおなじように、
女役者のあいだにも立役と女形とは、はっきりと区別されていた。粂八は座頭であるか
ら当然立役であったが、その舞台顔が美しいのと舞踏が巧みであったのとで、自在に立
役と女形とを兼ねていた。」
 なるほどなであります。