先日に「ヤクザとサカナ」を読んでいましたら、北海道の海岸でのナマコの
密漁に多くのページがさかれていました。当方は、海産物でもナマコは一生
食しなくとも悔いることはないと思う人でありまして、ナマコがえらい高値で
取引されるということ自体が信じられないのであります。
北海道でのナマコといえば、鶴見良行さんに「ナマコの眼」という本があっ
たことを思い出しました。これは名著という評判でありまして、今では文庫に
もなっているのですが、当方はだいぶん前に、これの元版を安価で入手した
ままで、今の今までページを開いてみることもなしでした。(これのあとがきを
見てみましたら、この「ナマコの眼」のもともとは1986年1月から89年4月ま
で「ちくま」に連載したものであるとのこと。「ちくま」をずっと購読しているの
に、連載中たぶんまったく読んでいないはず)
これはほんと驚くべき本でありまして、ナマコについての歴史地理が地球
規模で描かれています。
本日は、この本から江戸時代の北海道でのナマコ取引が書かれているとこ
ろをつまみ読みです。江戸時代ですから、ヤクザは登場しませんし、密漁とい
う概念もありません。
江戸時代の北海道(というか蝦夷地ですね)で漁を担当するのはもっぱら
アイヌの人々でありました。現代のヤクザがひと目を避けてナマコを密漁する
としたら、江戸時代のアイヌの人々は、ナマコをとって商人に売る時にがっちり
と搾取されることになっていました。
現代のヤクザはぬれ手にナマコとうそぶくのだそうですが、蝦夷地のアイヌ
の人々は、自分たちが生活の場としてきた漁場を追われ、和人が経営する
漁場で働かざるを得なくなります。
鶴見良行さんは、このように書いています。
「和人の漁業進出は、アイヌ漁民の食糧を奪っただけではない。かれらが重き
をおいていた自然と人間のかかわりに潜む信仰の世界をも破壊した。」
当方のところは曽祖父の代にひと山あてようとして北海道にわたってきた
のですが、海ではなく内陸部での開墾に従事したとしても、ここでもやはり、
同じようなアイヌの人々との関係があったことでありましょう。