しみじみ読了 2

 嵐山さんがきだみのるさんのお供で、小さな村の取材をしていたとき、きださんは
75歳であったとあります。1971年のことでありますが、本当にパワフルな老人である
ことで、当方にはおよびもつかないことです。
 嵐山さんの「漂流怪人・きだみのる」は、従者からみたドンキホーテの肖像であり
ますね。文中できだドンと記していますから、そういってもいいのでしょう。となると
ミミくんは、姫ということになるのかな。
 この本のほとんどは、嵐山さんが担当した「ニッポン気違い列島」を読み解くための
参考書であります。なんといっても従者(本の中ではきだドンから「ジョウ・マネ
ジャー」として登場するところあり)でありますからして、きだドンの露払いは、相当
に大変でありましたでしょう。そのときどきでの、思いつきからの無理難題でありま
しょうから。
 嵐山さんによるスケッチ。
「フランス趣味と知識人への嫌悪。反国家、反警察、反左翼、反文壇で女好き。果てる
ことのない食い意地。人間のさまざまな欲望がからみあった冒険者であった。たまに
会って食事をするだけならば、これほど楽しませてくれる人物はいないが、厄介きわま
りない。」
 厄介な人はあちこちにたくさんいますでしょうが、ここまでけた外れの厄介人という
のは、そうそういないことです。当方などは、すぐにまいったといってしまいそうです。
「どこへ行っても、地元の新聞社にきだドンの信奉者がいた。きだドンは地方の名士を
籠絡する術を心得ていて、それは流浪する人間が体得した本能のように思えた。」
 まだ地域おこしなんて言葉もなかった頃ではありますが、地方の小さな町に著名な文
化人が移り住んでくるとすれば、それを利用したいと地方の名士たちが思うのは、当然
なことでありますが、なんとも相手が悪いことでありまして、きだドンは、まるで名士
たちの思惑どおりには動かないことでありますね。
「最初のうちは、どうぞどうぞといって泊めていた人も、みんなあきれて困りはてるん
ですよ。先生が来ると、押しかけ強盗みたいで、どこの家も泊めたくないんです。」
まったく空気を読むということがないのですから、こういうことになるのでしょう。
 きだドンとは、著作を通じてつき合うというのが一番であるようです、