「花森安治装釘集成」2

 当方の結論を、先にいいますと花森安治一銭五厘の旗」は、みずのわの周防大島
のみかん畑に掲げられるのが一番ふさわしいとなります。
花森さんがいうところの「一銭五厘の旗」がどういうものであるかは、その本文をご
欄になってくださいですが、最後のところだけを引用です。
「 ぼくらは、ぼくらの旗を立てる
  ぼくらの旗は、借りてきた旗ではない
  ぼくらの旗のいろは
  赤ではない 黒ではない もちろん 白ではない 黄でも緑でも青でもない
  ぼくらの旗は こじき旗だ
  ぼろ布端布をつなぎ合わせた 暮しの旗だ
  ぼくらは 家ごとに その旗を 物干し台や屋根に立てる
  見よ
  世界ではじめての ぼくら庶民の旗だ
  ぼくら こんどは後へはひかない  」
 戦前の事情に明るい人は、一銭五厘というのは郵便はがきの代金で、このはがきで
兵隊が召集されたこととおわかりでしょう。花森さんは、一銭五厘とは庶民のことだ
といっています。それで、一銭五厘の旗は、庶民の旗となるわけです。
 この「一銭五厘の旗」の文中には、次のようなくだりもあります。
「 民主々義の<民>は 庶民の民だ
  ぼくらの暮しをなによりも第一にするということだ
  ぼくらの暮しと 企業の利益とが ぶつかったら 企業を倒す ということだ
  ぼくらの暮しと 政府の考え方が ぶつかったら 政府を倒す ということだ
  それが ほんとうの<民主々義>だ   」
 これが花森さんであります。「一銭五厘の旗」には、本作りに関わった職人さん
のお名前が目次前にしっかりと記されていました。

 これなどを眼にしますと、吹けば飛ぶような離島に本拠をおいた零細出版社が、
天下の世田谷区美術館に、「花森安治装釘集成」を展示にあわせて置いて販売しても
らえぬかと依頼して、パンフレットはおいても、出版物は高額ゆえに販売することは
できないといわれた話に、そんなのありかよと思いますでしょう。
 昨日にもすこしふれましたが「みすず 読書アンケート特集」で「花森安治装釘集
成」をあげている外岡秀俊さんは、次のようにコメントしています。
装丁家花森の全貌を伝える決定版。文章は言葉の建築だから、本は釘でしっかり
止める。花森が『装釘』の言葉を使ったのは、それが理由だという。本の風合いや
佇まい、書体の選び方や言葉の配置に至るまで、花森が全霊をかけて挑んだ本づくり
への愛着と敬意を、この本がしっかりと受け継いでいる。」
 みずのわよ、周防大島のみかん畑に自らの一銭五厘の旗をたてよ であります。

以下は、1月19日発信のみずのわニュースレターのはりつけです。

昨年11月末に刊行しました「花森安治装釘集成」の売行きが伸び悩んでいます。
版元存命中にご購入のほど、よろしくお願いいたします。
メエルでご注文いただけますれば、振替用紙同梱にて直送いたします(送料無料)。
書店さんでのご注文も可能です。
買い支えなくして、まともな出版は成り立ちえません。よろしくお願いいたします。
★★★
花森安治装釘集成
唐澤平吉・南陀楼綾繁林哲夫 編
みずのわ出版 2016年11月刊 B5判並製(PUR製本)遊び紙含め288頁
 収録タイトル500点超 カラー図版約1,000点
税込定価 8,640円(本体8,000円+税640円)送料無料
ISBN978-4-86426-033-6 C0071

「花森のことば」転載コラム
暮しの眼鏡 あとがき 抜粋 創元社 1953
一戔五厘の旗 あとがき 抜粋 暮しの手帖社 1971
装釘と著作権 日本読書新聞 1947.5.14
映画の観方 抜粋 紺青 映画特集号 1948.4.1
本作り 芸術新潮 1952.7
推理小説について 座談会抜粋『世界推理小説全集 第6回配本第20巻月報』
題字について 夢声対談「問答有用」より 週刊朝日1953.5.10
暮しの手帖の三つの幸せについて 編集者の手帖 抜粋 暮しの手帖 100号
職人仕事 図書 1953.10
編輯後記 松江高校校友会誌19号 1932.3
編輯後記 松江高校校友会誌20号 1932.7
青い洋燈 週刊朝日 1951.2.25
絣 週刊朝日 1951.7.8
初夏野菜図 週刊朝日 1951.7.27
たのしい酒 週刊朝日別冊 初夏読物号 1954第2号
朝の食卓 週刊朝日別冊 特集ニュース・ストーリー 1954第3号
9月のカレンダー 週刊朝日 1954.9.5

表紙 GAファイルホワイト 四六判Y目310kg 平=白箔(凹) 
背=黒箔(艷消凹)
帯 ヴァンヌーボVナチュラル 菊判Y目90.5kg 4°
本文 モンテシオン 四六判T目81.5kg 4°

印刷 株式会社山田写真製版所
製本 株式会社渋谷文泉閣
装幀+エディトリアルデザイン 林哲夫
プリンティングディレクション 高智之・黒田典孝(株式会社山田写真製版所)

ご注文は、みずのわ出版までお願いします。留守がちですので、ファクスもしくは
メエルのほうが確実です。
Tel/Fax 0820-77-1739 mizunowa@osk2.3web.ne.jp

・注文部数・お名前・ご住所・電話番号をお知らせください。本が出来次第、
郵便振替用紙同梱でお送りします(送料無料)。書籍の到着から10日以内を目処に
ご送金をお願いします。恐れ入りますが、郵便局への御足労と、振替手数料は
ご負担願います(窓口よりも、ATMを使ったほうが手数料が安く上がります)。
・銀行振込をご希望の場合、別途見積書、領収書等が必要な場合は、その旨
お知らせください。
・代引サービスは取り扱っておりません。あしからずご了承ください。
★★★
以下、余談です。
今年2-4月、都内の某美術館で「花森展」開催予定と聞き、「花森集成」の委託販売を
お願いしたい旨連絡を入れました。返答は、「残念ながら高額な書籍のため販売は
困難です。チラシをお送りいただければチラシ置き場に設置します」ということでし
た。高額な美術書は他にも山ほどあります。断る理由が筋の通ったものであれば、
それはそれで致し方ないと考えます。が、いくらなんでも、これはいけんでしょう!
 昨今のマスコミに蔓延する忖度っちゅうやつがこの業界にも蔓延っとるのでせうか?
チラシは送りません。ワシはそこまでお人好しではありません。じくじくと根に持つ
人種です。粘着質ゆえ、カネにもならんこの仕事を20年以上続けているのです。