あいかわらずで読んでいるのは梯久美子さんの「狂うひと」であります。残りは
百ページほどとなりましたが、やっと島尾夫婦の日常に落ち着きがでてきたところ
でありますので、ひりひりとした思いを感じることなく読むことができそうです。
とはいっても、梯さんは次のように書いています。
「淡々と綴られた『日の移ろい』の日常の底に、ぴんと張った糸のような緊迫感が
あるのは、家庭がいまも戦場であるからなのだろうか。『死の棘』と同様、島尾は
そこから逃げることをしない。じっととどまりながら、観察し、記録し、それを
小説にするのである。」
梯さんのこの本を読みましたら、「日の移ろい」の読み方もかわってくるのであり
ましょうね。
- 作者: 島尾敏雄
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1989/12/10
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
安原顕さんでありまして、「海辺の生と死」刊行後にそれを読んで、島尾ミホさんを
「あなたは天才です」といって「海」に寄稿を依頼したのも安原さんでありました。
この「海」時代が安原さんにとっても一番良い時であったのでしょう。
「狂うひと」を読んだあとに、「死の棘」を読もうという気分にはなりそうもありま
せんが、「日の移ろい」はのぞいてみようかという感じになってきました。本日に
手にして、たまたま開いた「日の移ろい」のページには、次のようなくだりがあり
でした。
「前田純敬から突然ポーランド語の歌謡曲を録音したソノシートが送られてきた。
フランス人の友達からもらったのだという。彼自身は薬剤アレルギーにかかりやっと
持ち直したところだと書いてあった。」
前田純敬さんは、富士正晴さんの「VIKING」のメンバーでありましたが、ここに
導いたのは島尾敏雄さんでありました。相当にかわった人であったのでしょうね。
山田稔さんの作品にも描かれていて印象に残っていました。そういえば、昨年の1月に
手にした雑誌「フリースタイル」に、和田尚久さんという放送作家さんが自分の父は
前田純敬と書いているのを見て驚いたことをこのブログでも話題にしておりました。
梯さんの本で、今読んでいる章は「書く女」となっています。この「書く女」と
いうのを見ましたら、画家の有元利夫さんが、大学で知り合って一緒になった夫人
に、「容子は私が死んだら描けばいいんだ」と言った逸話を思いだすことです。