日本語のために 5

 ほんとに池澤夏樹さんの「日本語のために」は勉強になることです。

 そんなこともしらないのかといわれそうでありますが、「いろはうた」と「五十音
図」についての文章が、「音韻と表記」という章に収録されています。
 五十音図についての文章を書いているのは、松岡正剛さんで、もともとは「千夜
千冊」で発表されたもので、その時のタイトルは「馬淵和夫『五十音図の話』につい
て」というものです。
 この文章のなかに次のようにありです。
五十音図は、ぼくも試みに学生や知人たちに尋ねてみてショックをうけたことがある
のだが、多くの日本人が『明治以降の産物』だとおもっているものなのだ。ひどいとき
には、欧米の言語システムに合わせて作成されたものとさえ思われている。 
 そうではない。五十音図は奈良平安の苦闘を通過した日本人がつくりあげた文字発音
同時表示システムなのである。つまりは空海の声示システムのひとつの到達点なのだ。」
 五十音図空海などによる梵字梵語研究が進む中で、日本語の文字と発音の確立が
時代のテーマとなり、その過程で日本人が初めて「発明」した日本文字である平仮名と
片仮名の定着されるようになったとあります。
 なんとなく「国語元年」といわれた時代に作り出されたのかと思いましたら、これは
もっともっと前のことでありました。これは知らなかったことです。
 上の引用に続いて、松岡さんは次のように書いています。
「ついでにもう一言いっておくが、このようなプログラムを日本人は五十音図以外にも
もうひとつ用意した。それが『いろは歌』というものである。」
 なるほど「いろはうた」のほうは、なんとなく昔よりあるような気がするなと思い、
その前におかれた文章を見ましたら、そこには小松英雄「いろはうた」という文章があ
りです。行き届いたことです。 これをみますと、平安時代の末期には「以呂波釈」
という一節があるとありました。そんな昔からあるのですね。