時間はあるのに

 客人は帰ったし、仕事をしているわけではないので時間はたくさんあるはずな
のに、どうして本を読めていないのかとつらつら考えることです。
 そんなことばっかりいっていてもしょうがないので、すこしでも時間を見つけ
ては本を手にするようにしなくてはいけません。こういう状況にあるときは、と
にかくページをかせぐことができるものを読むに限ります。
そういうわけで、今読みすすめているのは、先日に客人が届けてくれた岩波少年
文庫であります。

 とっくに読めていても不思議でないのですが、いまだ100ページくらいのところ
をうろうろとしています。この小説はファンタジーでありますが、ブッツァーティ
としては初期の作品で、大人向けに発表したデビュー作(もちろん大人向け)の
二年後に発表されたものです。(そういえば、かって筑摩書房からは子ども向け
の新作シリーズが刊行されていましたですね。長谷川四郎さんとか辻邦生さんが
ラインナップにのっていました。あのような企画は、最近はあったでしょうか。)
 古森というのは、古い森ではなくて、古森と呼ばれる森となります。ここには、
妖精たちが住んでいるのですが、そんなことってあるのでしょうかね。
 小説の語り手は、次のようにいっています。
「じっさい、歴代の古森の所有者や谷の住人たちは、これらのモミの木には何か
ふつうでないものがあるとわかっていました。この森の木を切る者がだれもいな
かったという事実からも、説明がつきます。しかし、木の精が話題にのぼると、
人びとはばかにしたように笑うのでした。
 まだ先入観にとらわれない子どもたちだけが、森には妖精が住んでいるという
ことに気づいていました。そしてくわしく知りもせずに、よく妖精の話をしたも
のでした。
 でも両親からばかげたおとぎ話だと言われつづけ、子どもたちも大きくなるに
つれて、考えが変わっていったのでです。」
 森の近くに住んでいる子どもであれば、森のなかにはふくろうのような鳥だけ
でなく、森に住む生き物などに姿を変えた妖精たちが住んでいるというのは、
あったり前のこととなりますね。
 ということは、大きくなって考えが変わっていったとすれば、この小説を読ん
で、妖精が森に住んでいたと信じていたことを思い起こして欲しいということで
ありましょうか。