読まなくては 5

 トニー・ジャットさんの「20世紀を考える」の、これまで読んだなかで一番愉快な
逸話の紹介です。
 この本のテーマとは直接関係のない家族の話題でありますが、こういうところが、
面白しです。
「乗っていた車そのものでさえも、父の非ユダヤ的なユダヤ人性を表していました。
父はシトロエンの大ファンでしたが、その会社がユダヤ人の一族によって設立された
という事実を、彼がわたしに言ったことは一度もないと思います。
父はけっしてルノーには乗りませんでしたが、それはおそらくルイ・ルノーが悪名高
ナチスの戦時協力者で、ルノーヴィシー政権のシンパであったことの罰として
フランス解放後に国有化されてしまったためでしょう。そのいっぽうで、プジョー
家族の会話の中では好意的な扱いを受けていました。つまるところ、プジョー家は
プロテスタントの出であって、カトリックかつ反ユダヤ主義的なヴィシー政権時代の
フランスに巻きこまれることはなかったのです。こういった背景を口に出して言う者
はいませんでしたが、どういうわけかそれはわたしにとってはまったくもって明白な
ことだったのです。」
 当方もルノーという自動車会社が国有化されていたことは承知していたのですが、
それがオーナーのヴィシー政権協力への結果であったとは知りませんでした。
ジャットさんのお父さんは、シトロエンの大ファンということですから、きっと2CV
にでも乗っていたのでしょう。