宮田昇さんの「図書館に通う」に登場する当方がそれまであまりなじみのなかった
人のエピソードであります。
- 作者: 宮田昇
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2013/05/18
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (16件) を見る
「リリアン」というのは、ノルウェーの作家の小説で、本国では発禁処分を受けたの
だそうですが、日本では1971年に田中融二さんが翻訳し、これが「猥褻図書として
発禁になり、出版社社長と翻訳者が書類送検された」のだそうです。
翻訳者の田中さんは、宮田さんの古くからの友人で、この作品を翻訳にあたっても
相談を受け、起訴されたときにも弁護士のところに一緒したのだそうです。
猥褻に関して、宮田さんは次のように書いています。
「はじめて知ったことだが、翻訳を担当している他社の編集者の言によると、ポルノ
の翻訳では禁じられた性表現があり、それらは婉曲にぼかさなければならない。その
常識を破り、しかも匠の技の翻訳をしたのだから、警察に目をつけられないはずは
ないというのだ。」
その昔は猥褻の認定が極めて厳しく適用されていましたので、かなり頻繁に摘発が
あったように思います。
他社の編集者からすれば、ちょっと表現を婉曲にすれば、摘発されないのに、どう
して、それをしないのかと思ったことでしょう。このへんは翻訳者のセンスであるの
かもしれません。
「オリンピア・プレス」というのは、フランスにあって前衛文学とポルノグラフィを
併せて出版していて、一番有名な作品は「ロリータ」と「ファニー・ヒル」でありま
すね。
「オリンピア・プレス」の刊行物は、日本では河出書房から「人間の文学」という
シリーズで翻訳がでるのだそうですが、これの企画は、のちに青土社を興す清水康雄
さんとありました。
「オリンピア・プレス物語」というのがでているのだそうですが、その翻訳者につい
ても宮田さんは触れています。
- 作者: ジョンディ・セイント・ジョア,John De St Jorre,青木日出夫
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2001/09
- メディア: 単行本
- クリック: 5回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
有名であった。その彼の長い海外出張中に、留守宅に窃盗が入り、犯人は思わずポル
ノを読み漁って長居しただけでなく、何冊かを盗んでいった。窃盗犯が捕まって、
青木の収集が官憲にわかったが、盗まれた猥褻書の没収だけで済んだという。」
この時代の猥褻書であります。いまでありましたら、盗まれた本も戻されたこと
でありましょう。
「文学が、きびしい規制のなかで『性』を描こうとして、逆に力を得ていた時代は、
遠くなったのかもしれない。
奇しくも田中融二が自死したように、『リリアン』のイエンス・ビョルネポは、
日本で翻訳が出た五年後、首を吊って自殺した。鬱ともアルコール中毒であったと
も伝えられている。」
田中融二さんは、北海道で自死するとのことを宮田さんに伝えて、亡くなるので
すが、田中さんのことについては、「戦後翻訳風雲録」にも取り上げられている
とのことで、やはりこれも読んでみましょう。(元は「本の雑誌」に連載で、その
時に読んでいるはずですが、すっかり忘れています。)
- 作者: 宮田昇
- 出版社/メーカー: 本の雑誌社
- 発売日: 2000/03
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (13件) を見る