女縁まんだら

 瀬戸内寂聴さんの「奇縁まんだら」は、それに収録されている方の数人は、新聞に
連載されていた時に目にした記憶があり、単行本となった時に図書館から借りて読ん
でおりました。今回文庫化されたのを機会に再読しているのですが、いつものことで、
すっかりと忘れておりまして、はじめて読むような楽しみであります。
「奇縁まんだら」はシリーズ化され全四巻よりなるのですが、この一冊目を手にした
のみで、他の巻でどのような方がとりあげられているのか、承知しておりません。
第一巻で取り上げられる女性作家は、宇野千代さんと平林たい子さんのお二人です
が、本来であれば脇役なのに主役以上に輝いている女性もありです。先日に大谷崎
佐藤春夫について女縁ときしましたが、それに加えての縁者は、なんとなんとの人で
ありました。
 瀬戸内さんの「奇縁まんだら」の「佐藤春夫」から引用です。
谷崎潤一郎の末弟の終平が書いた『懐かしい人々 兄潤一郎とその周辺』という本
によって、春夫と千代の結婚の直前、実は、千代は別の若い男、和田六郎という者と
の結婚話を、夫谷崎によって進められ、六郎の家族もそれに同意して、結婚式の打ち
合わせまでに至っていうたという事実を知らされたことだ。
 私は愕きの余り茫然とした。こんな事実を知らず、ただ公表された妻譲渡事件を鵜
呑みにしてきたのだ。小説家としては、この事実を、作品として書き直さなくれば
おさまらない。
 幸い私は努力の甲斐あって、和田六郎の子息和田周氏にめぐりあえた。新劇の俳優の
周氏は、知っているすべてを惜しみなく私に話して下さった。その実話は小説より
ずっと奇なるものであった。
 和田六郎は、文学青年で、谷崎の許に弟子入りした。・・・小説家志望の六郎は
住み込みの谷崎家の秘書のようになり、年上の千代と恋愛関係になっていた。谷崎は
妻と六郎の不倫を同時進行形で新聞に連載した。それが名作の名の高い『蓼食ふ虫』
になった」
 「蓼食う虫」というのは、そういうことが背景にあったのでありますか。このあと
のくだりで、「小説家志望の和田六郎」さんについての種明かしがされるのでした。