最近買った本 4

 成人映画のポスターをほとんど目にすることもない山の中で中学時代を過ごした当方
は、いつに新東宝という会社があることを知ったかであります。新東宝が倒産した時に
はまだ十歳ですから、ずいぶんあとになってからのはずです。
 高校にはいって町に下宿をするようになったのですが、銭湯に通うようになって初め
て映画のいろいろなポスターをみるようになったと思われます。もちろん、その時には
東宝は映画をつくってはいなかったのですが、この映画会社のことを知るようには
なっていました。
 たぶん、高校時代に読んだ小説の影響もありますでしょう。この小説のことは、鹿島
茂さんも言及しています。それは大江健三郎の「セヴンティーン」ですが、これにあだ
名が「新東宝」という少年が登場するのでした。新東宝の映画は知らないが、新東宝
いう名前は、これによって強烈にすりこまれました。
 高校時代を過ごしたのは飛行場のある町でしたが、高校の友人にはラーメン屋の息子
というのがいて、下宿生の当方をあわれんでよくラーメンを食べさせてくれたものです。
ラーメン屋の特製でありまして、チャーシューがたっぷりはいったおにぎりが添えられ
ているのですが、育ち盛りの高校生は、足繁くかよったものです。
 そのラーメン屋の息子から、東京から定期的に立ち寄る客のことを聞いたのは高校を
卒業してからのことかもしれません。その客は仕事で飛行場に着くと、まっすぐにこの
ラーメン屋に寄ってラーメンを食べ、そのあと目的の町に移動するのですが、ラーメン
を食べたあと、必ず映画の招待券を数枚おいていったとのことでした。
そのお客さんこそ、かって新東宝の社長でありました大蔵さんでして、その当時は
大蔵映画の社長で、札幌にオークラ映画専門の劇場を持っていて、そこにいくのが目的
であったのですが、このラーメン屋の家族にとって、大蔵さんは太っ腹ないい社長と
いう感じであったようです。
 残念ながら、当方はラーメン屋で大蔵社長を見かけることもなく、映画の招待券を
わけてもらったこともなしです。映画の招待券は、たしか一般の映画館でも使えるもの
で、オークラ映画限定ではなかったようです。