春の便り 3

 「海鳴り」25号には、常連寄稿者である山田稔さんとか、庄野至さんの文章も掲載
されています。
 このなかでは、庄野至さんの文章に詩誌「四季」のことが登場し、杉山平一さんの
お名前もでてきて、この号らしい趣になっています。
 それは庄野至さんが新聞社主催の文章教室で出合ったお仲間と始めた同人誌に関わる
お話です。
「いよいよ三人だけの小さな文芸誌を出すことになった。まず雑誌の名前を決めなけれ
ばいけない。それぞれが案をだすことになった。詳しい経緯は覚えていないが、私が
何となく好きなビバルディの『四季』から、『四季』という誌名を提案したら、それが
いいとなって、簡単に決まってしまった。」
 庄野さんも、そのお仲間も「四季」という誌名をすんなりと受け入れたということで
ありますので、この誌名からイメージすることはなかったのでありましょう。
 これを知友人におくったところ、庄野潤三さんから次のような手紙が届いたそうです。
「ところで、困ったことがあります。雑誌の名前のことです。『四季』というのは戦前
の昭和文学史に残る有力な詩の雑誌名です。小生くらいの年代から上の人で、文学に
関心のある人なら知っています。
 詩人、杉山平一さんなんかは、学生時代、『四季』の三好達治選の詩に応募して、
何度も入選したことがあります。そこに詩が載れば大変なよころびであったと思われ
ます。
 その『四季』を誌名にするのは、まずい。『知らなかった』では済まされない。
新しく、別の誌名に改めるより仕方ないでしょう。仲間の人たちと相談してみて下さい。
第二号から別の誌名で生まれかわることを望みます。」
 これは平成5年のことだそうです。
 同人は、このアドバイスをいれて第二号から誌名を「蒼海」としたのだそうです。
 平成5年というと、いまから20年ほど前になりますが、そのころに「四季」という
と一般には詩の雑誌名とは認識されていないということがわかります。
 それにしても、弟たちがはじめた同人誌がおくられてきたら、それを読んでの印象
を手紙にして送るというが、いかにも庄野潤三さんらしく、庄野家の流儀がうかがえる
ことであります。