この時期の話題

 知人に子どもが生まれたとき、その誕生日に近い刊行日付の本をプレゼントして
いたことがあります。本の発行日というのは、末尾が5日とか10日なんていうのが
多くて、そういう日に生まれていましたら、わりあい容易に見つかって、あとは
その本がプレゼントにふさわしいかどうかであります。エロティックな内容のもの
とかお粗末なものはいけませんですよね。
 そういえば昨年三月には、身内に子どもが誕生したのだが、それをお祝いしての
本を購入していなかったことだな、知人に子どもが生まれた時には、けっこう熱心
にさがしたのに、この違いはなんであるかと、すこし反省でありました。
そんなこんなを思いながら、先月ひさしぶりに大きな本屋にいって、前から買わなく
てはいけないと思っていた本を手にして奥付をみましたら、これが身内の子どもの
誕生日と一日違いでありました。そうとわかっていれば、もっと早くに購入して
おくのでありました。

振り子で言葉を探るように

振り子で言葉を探るように

 これには、当方が最初に堀江敏幸さんのことを認識した「日本現代文学の文庫本を
めぐる五十の断章」(学習研究社『ジャンル別文庫本ベスト1000』1995年 収録)
が再録されています。日本の現代文学の五十人による文庫アンソロジーリストで
ありますが、これがよくできていて、こうしたリストをつくる腕前に感心した覚えが
あります。これに取り上げられている作家で一番知名度が低いのはだれでしょうか。
たとえば、そうした一人と思われる人について書かれたものの、書き出しは次の
ようになります。
チェーホフの訳者、堀辰雄の友人としてのみ記憶するのでは、この文人に対して
あまりに礼を失する。」
 これだけでもわかる人にはわかる、神西清さんの文庫本の紹介であります。
「たしかに神西清の精髄は、『雪の宿り』や『白樺のある風景』のような短編に存し
ているのだろうが、未完の小説には未完なりの面白さがある。『灰色の眼の女』は、
灰碧色の眼を持つイリリヤ、その人よりも、埴生十吉が勤務する商務館に集う人物の
寸描にきらめきを見出すべき散文だ。巻末にふされた三島由紀夫の解説は、懇切に
して手厳しい。」 ひさしぶりに「灰色の眼の女」を手にしてみたくなりました。