休みの日は小説を 5

 丸谷才一さんの「今は何時ですか?」の作中人物である直木賞女性作家が書いた
小説が第二章となるのですが、この作品は作家のかっての恋仲の男性を弔うために
つくられています。
 この作中作品は私小説ではないものの、昨日の女性主人公には作者である女性作家
が投影されていて、その弟である建築家には恋仲であった男性の面影があるようです。
 そして、この弟は45歳で心筋梗塞で亡くなるのであります。
 ここからは作家 浜谷百合子の作品からの引用です。
「来年の九月にできるビルの竣工式に来賓として出席してもらへないかといふ問い合せ
が北海道知事の秘書からあったので引き受けた。知事には別に義理はないが、その翌日
支笏湖のほとり、喬志の亡くなった現場へゆかうと思ったのである。・・・・
 グランド・ホテルに一泊して、翌朝八時にルーム・サーヴィスで、グレープフルーツ
のジュース、トースト、いり卵、野菜サラダ、コーヒー。これが喬志の最後の朝食だと
わかってゐるから。九時、弟はレンタ・カーで出発したのだが、同じ時刻、姉は道庁さ
しまはしの車に乗る。案内役の同乗は、事情を打明けて固辞してある。よく晴れた朝で
殊にさはやかな空気が、湿度の高い本州の九月から来た者には快い。土曜なので道は
閑散である。弟の死んだ日は何曜日だったのか、記憶にない。土曜日ならいいのに。
十時をすこしまはったころ、オコタンペ湖といふ山裾の小さな湖に着いた。」
 この舞台となっている地を、当方は良く知っているぞであります。中学から高校に
かけての数年間、支笏湖畔に住んでいたことがありました。オコタンペ湖は、学校の
遠足でいくようなところでありまして、いまから40数年前はけもの道のようなものを
通っていけば、湖にたどりつくことができました。今は近づくことはできず、上の
ほうから展望するだけになっているようです。
 支笏湖はそこで入水自殺をすると浮かんでこないという伝説がありまして、支笏湖
背景に写真をうつしますと霊がうつりこむなんて同級生たちはいっておりました。
 作中の「喬志」さんは、突然なくなったのですが、本当に心筋梗塞でなくなったので
ありますよね。(小説の人物にそんなことをいってどうなるのかです。)