休みの日は小説を 2

 丸谷才一さんの短編小説「今は何時ですか?」は、文藝家協会が編集する
「文学2000」に収録されていますので、発表された時には、それなりに話題となった
はずですが、この作品は放置されたままでありました。
 丸谷さんはほとんど小説を発表しなくなっていますので、これとあわせて一冊にまと
めて短編集とする作品がなかったということでしょうか。(文芸誌などの広告に丸谷
さんの新作は、けっこう大きく取り上げられていて、とりあえずそれが小説であるとき
には、目を通すように心がけていたのですが、ほとんど記憶にないですからね。
 先日に眼にすることができた貓々先生による丸谷才一の著作目録(参考になり
ます)でも、90年代後半からは小説が姿を消しているようであります。)
 凝ったしかけの長編小説を十年かけて書き上げるのと、中編小説を一年に一作発表
するのではどちらがよかったのかと思います。特に、当方は70代後半となってからの
長編は苦労して書かれているのはわかるのですが、何度も読み返そうという気持ちに
ならなかったことから、これであれば、これのエピソードをいかして、いくつかの
短編または中編にまとめたほうがよかろうと感じたりしました。
 そのへんが、実験的な小説で世にでた丸谷さんのこだわりでありましょうか。
「今は何時ですか?」でありますからして、このタイトルからして、なにやら人を食って
いるではないですか。
 この小説の後記には、「題名の由来である笑ひ話」が、G・J・ウィットロウの
『時間その性質』によるが、わたしの言葉に書き直した。」とあります。
 この「笑ひ話」とは、次のものだそうです。
「 ロシア人がロンドンの街を歩いてゐて、向うから来た人に訊ねた。
 『今は何時ですか?』
 すると相手は、
 『そんなむづかしいこと、私にわかるもんですか』
 と答へて通り過ぎた。おや変だなと思って、考へてみると、彼はついうっかり、
 『時間とは何ですか?』
 と言ったのだった。」
「今は何時ですか?」=「時間とは何ですか?」ということですから、この小説のテーマ
は時間ということになります。