創業40周年 10

「世界幻想文学大系」は紀田順一郎さんと荒俣宏さんが企画して20社ほどの出版社に
持ち込んで断られ、国書刊行会が採用してくれたとありました。これは1975年のこと
であったとのことです。(本当に太っ腹な出版社です。)
「ラテン・アメリカ文学叢書」が刊行されたのはその二年後でありますが、これは
鼓直さんの企画であったようです。1977年において、ラテン・アメリカ文学というの
は、どのくらい読者をもっていたかでありますが、ボルヘスガルシア・マルケス
二人は翻訳があって、このほかでは古くからの作家 アストゥリウスとカルペンティ
エールくらいしか翻訳がなかったように思います。
 この時代には、ほとんどラテンアメリカ文学についての情報がなかったわけであり
ますからして、この文学叢書がちゃんと刊行されるのかなと心配したものです。
それだけに、この内容見本が提供してくれる情報は貴重なものでありました。
 当時の雑誌でラテンアメリカ文学についての特集を組んだものには、次のようなも
のがありました。(「文学叢書」刊行の翌年のことです。)

 今はなき「カイエ」であります。版元の冬樹社もなくなってしまったのですが、
この「特集号」は、78年11月号となります。
特集のタイトルは「ボルヘスラテンアメリカ文学」となっていますので、焦点は
ボルヘスに絞られています。ヨーロッパ文学の伝統を継ぐラテンアメリカの作家と
いうようなイメージでしょうか。
 この特集の知恵袋は、篠田一士さんでありまして、ボルヘスの翻訳と清水徹鼓直
さんとの討議を掲載しています。(これはいま読んでも興味深いものです。)
篠田一士さんが、世界的にも早い時期にボルヘスを評価して、フランス語からの重訳と
いうかたちで、「不死の人」を翻訳したのは1954年というのでありますから、これは
すごいことなのです。
 篠田さんが、最初に読んだ「不死の人」はフランス語訳ですが、これは「ロジェ・
カイヨワ」が訳したものとなります。これもすごい話です。当方は篠田さんの導きで
ラテンアメリカ文学を知るにいたったので、この「カイエ」は当然に購入したのです
が、この時点で、当方はボルヘスはほとんど理解できずでありました。