小沢信男著作 209

 第四回桑原武夫学芸賞の選評つづきです。
 本日は、多田道太郎さんによるものです。
「『裸の大将一代記』。原稿用紙にして何百枚という大冊、読み終わって納得、なっと
く。話がすすむにつれ、山下清という人間と作品のイメージがひろがり、深まり、感銘
がドーンと来ました。縄文以来の本然がみごとに語られています。ヤマは二つあるよう
で。
一つは『東京の焼けたとこ』という貼り絵と、著者小沢さんの焼け跡体験とが重ねられ
ているところ。もう一つは『長岡の花火』という貼り絵の、『画中の川原を埋めつくす
群衆』の『足の裏をみせて坐っている』印象。B29の焼夷弾の雨を降らせた中空へ、今、
日本一の大玉の花火が打ち上げられる。鎮魂。『乞食絵師山下清の生涯とその作品を
思えば、だれもが心洗われる安らぎをおぼえるのでありました。どっとはらい。』
うーむとぼくもうなり、津軽あたりの方言とも知らず『どっとはらい』と唱えたくなり
たくなるのでした。文体の名人芸というほかはありません。敬礼!」