小沢信男著作 207

 桑原武夫学芸賞潮出版社が主催ですから、発表は「潮」7月号に行われることになっ
ています。
 小沢信男さんの受賞発表を伝えるのは「潮 2001年7月号」となります。この号に
は、受賞作の紹介、選考経過、選評が掲載されています。
 まずは「選考経過」の紹介からです。
「 第四回桑原武夫学芸賞は右記のように決まりました。2000年1月から2001年1月ま
でに刊行された単著の単行本のなかより一般読者および有識者からのアンケートにより
推薦された作品を絞り込み、五月十九日に京都において、選考委員の慎重な審議により
決定いたしました。
 詳しくは、各選考委員の選評をご覧ください。」
 このようにありますが、他にどのような候補作があったのかはわかりません。選考委員
の選評にも登場しません。
 選考委員は掲載順に梅原猛河合隼雄多田道太郎鶴見俊輔です。(どうやら、名前
の五十音順のようです。なにやら小沢信男さんとの距離の遠さ順のようにも思えますが)
 まずは、梅原さんの選評から紹介。
「今回の候補作品のなかに、小沢信男氏の『裸の大将一代記 山下清の見た夢』を発見し
たことは幸甚であった。私はこれを読んで、インドに生まれたお釈迦さんが二千五百年
経って山下清という人間に生まれ変わったのではないかとつい考えた。それは、山下清
という人物がそのような人物であるためか、それとも小沢信男氏の筆がそういう誤解を
与えるほど巧みであるためかわからないが、私はこの本によって、ドストエフスキーの、
エス=キリストは現代になって『白痴』という形で現れるという考えを思い出したほど
である。
 八方破れに見えるこの書には人間を見る目の冴えがある。ここに脇役として登場する
戸川行男、式場輶三郎、安井曾太郎梅原龍三郎、谷川哲三、小林秀雄などの人物が
的確にとらえられている。
 また山下清の作品にでてくる野糞や小便をしている絵などについて、彼の書いた手記を
もとにした考察など、まことにおもしろい。
 近頃の快作、あるいは怪作であると私は思った。」