小沢信男著作 114

 小沢信男さんの発表した小説はすくなくて、全部まとめても、そんなに大部に
ならないでしょう。いつも文芸誌に発表していなくては、読者に忘れられそうで、
それがためにたえず書いていなくては不安でしょうがないという方ではありませ
んので、本当にマイペースであります。
 河野多惠子さんの時評の冒頭に「小沢信男氏の作品をよむのは私には今度がはじ
めてなのだが」とありますが、作品は少なくて、ベストセラーになったりすることも
ないのですから、この時代(1982年頃)になって、はじめて読んだということを
いっても誰も不思議に思わないのでした。
 河野多恵子さんは、「要所要所に絶対的なものをつくり駆使して統制したのが
当時であるならば、毒も正論も創造的見識も相対化してしまう風潮づくりで見えぬ
統制がなされているのが今日といえるかもしれない。」と記していますが、この
作品から同世代の作家の時代意識に共感するところがあったのでしょう。
 この作中には、大阪の人から寄せられた「赤マント」に関する情報があるのです
が、河野多恵子さんもこどものころ「赤マント」のことを聞いたりしているので
しょうか。
 ちなみに大阪の人から寄せられた情報は、次のようになります。
「赤マントは東京にだけ現れたのではございません。私が大阪市南区の高津小学校
の三年ぐらいの頃、たしかにそういう噂がありました。」(この情報を寄せた方の
お名前は、大阪 紀田福子とあります。この情報を寄せたのは、バイキングの
メンバーである「福田紀一」さんでありますね。)
この作品は、「鋭いモチーフによって今日の現実を巧みにうがった短編である。」と
河野さんが評していますが、そのとおりと思います。
 当方は、この作品の主人公が「牧野次郎」さんとなっていることに、注目です。
写真家 牧野次郎さんというのは、小沢さんの「わが忘れなば」の主人公であります。
「わが忘れなば」から27年後の「写真家 牧野次郎」ものとなります。
「主人公が牧野次郎さん作品」はほかにもあったでしょうか。