メディア・アート創世記 6

坂根厳夫さんの「メディア・アート創世記」を手にしていますが、大阪万博と「美の
座標」に引き続いて、当方の目についたのは、次のものです。
「すでに出版されていた『美の座標』を読んで、その続編のようなものを書いてもら
えないかと雑誌『室内』から依頼があった。『室内』は随筆家の山本夏彦が編集長
だった雑誌で、思案した末に1974年の一年間だけ『かたち曼荼羅』を連載することに
した。
 ちょうど、当時フランスの数学者ルネ・トムの『カタストロフィ』理論が話題に
なったり、ダ・ヴィンチ展が開かれたりしたこともあり、身の回りのさまざま
『かたち』に潜む心理学的な背景や民俗学的なかたちへの感情移入の相違など、
ふだんは見過ごしがちなかたちに対する偏見までとりあげて綴ることができた。」
 坂根さんの仕事に注目をして依頼をしてきたのが、山本夏彦さんの雑誌というのは、
さすがという感じでありますね。当方は、これが単行本になったときに購入して、
はじめて「かたち曼荼羅」に収録の文章を読んだのですが、あとがきには、73年の
秋、『室内』編集部の岡田紘史さんがみえて原稿依頼があったとありました。
「当時は多忙な新聞社のデスク(科学部勤務)をしていたこともあって、何度もお断り
したことを覚えている。しかし、再三の説得についほだされて、ついついこんなエッセイ
の形で引き受けることになったのは、岡田さんのねばりのせいもあるが、私自身、かね
がね視覚による思索というテーマに人一倍の興味をもっていたからでもある。」
(河出書房刊「かたち曼荼羅」あとがきより)

かたち曼陀羅 (1976年)

かたち曼陀羅 (1976年)

 多忙な人に仕事を頼む場合には、よほど熱意をこめて依頼しなくてはいけないという
ことが、これを読むとわかります。
 この河出書房からの元版は、ほぼ正方形となる本で写真がたくさん使われていて視覚
に訴えるものです。このなかから、なにか紹介することはできぬかと
思いながら見ておりまして、次のページを掲載してみることにしました。
これは「南部めくら暦」というものですが、この暦は、「文盲の人々を対象につくられた
暦のことで、・・稲作に生きる地方の人々にとって、季節の移り変わりや年中行事を記し
た暦は、欠かせない生活の必需品で、当時は陰暦で年によって大小の月がかわったりした
から、よけい文字の読めない人々には重宝されたのだろう。」
 南部暦では、語呂合わせの発想で、季節の表現するのだそうですが、ここにある絵を見
て、なにか読み解くことができるでしょうか。
坂根さんは、「荷奪い」を「入梅」と読ませたり、「鉢と重箱と鉢と矢」を並べて
「八十八夜」と読ませる工夫には「茶目っ気があふれていて、少しも時代の古さを感じ
させない。」と記しています。