みすず「読書アンケート」 5

 古い「みすず」を並べて「読書アンケート」をのぞいていましたら、次のような
ものに目がとまりました。ちなみに手にしていた「みすず」は80年1月号となります。
 志貴春彦さん(精神医学)のあげたものと、そのコメントです。
「1 久坂葉子作品集「女」(六興出版 1978年)
  発行日は、著者が阪急六甲駅で自らその二十一歳の生涯を閉じたと同じ命日の、
 十二月三十一日になっている。ことし詩集や書簡集が出版され、富士正晴『贋・
 久坂葉子伝』も再刊された。死後二十七・八年たって、再評価の機運にあると見る
 べきだろうか。私は生前面識がなかったが、たまたま昨年からことしにかけて、
 故人をよく知る人達と交流する仕儀にいたった。著者がいつもたむろしていたという
 喫茶店で少憩したりして、その死についてあれこれ思いをめぐらしている。
 2 富士正晴「心せかるる」(中央公論社、1979年 )
  ことし著者の書物が、新刊・新装版を問わず、先述の編著や伝記を含めて、おび
 ただしく刊行された。・・・・この著者もまた、久坂との関連も併せて、トータル
 に把握さるべき時点に到達しているのであろうか。
 3 神谷美恵子「精神医学と人間」( ルガール、1978年)
  著者は十月二十二日逝去された。まだまだ仕事をしていただきたかったと残念である。
 縁あって著者の全蔵書が、私の勤務する病院に寄贈され、『神谷文庫』として保管さ
 れることになった。この際、ヴァージニア・ウルフの病跡に関心をむけるべきかと
 考えている。」
 これは今から30年前のものですが、これをみると、富士正晴さんはまだ健在であり、
活発な活動を行っていたことがわかります。そして、神谷美恵子さんは前年末に亡く
なったのですね。阪急沿線文化での三冊でありますが、これの志貴さんは沿線にお住まい
の方のようです。
 あげた本ではなく、前書きのほうでにんまりとしたのは、次のものです。
「 年明けて間もなく親しい知人の家に不幸な出来事。続いて二人の子の(あるいは合格
するやもしれぬスリルにみちた)受験(高校と大学)。前後して先年移転した勤め先近く
の町に住居新築工事が始まり、これに伴う資金作りに、書斎として使っていた公団
アパート3DKを売却、書籍は工務店倉庫に移送凍結され以後同団地3LK本宅居間六畳
一隅が本拠、机代わりに子の画板を首に吊して使用、やがてこの3LKも人手に渡し引越
し作業に専念。
 というわけで本年前半生活的日常はあまりの充実ぶり、ために読書面では極度の省力化
をもってバランスをとりました。」
 このように記していますのは、フランス文学者 中島昭和さん。当方は、この方が訳さ
れたジイドとデュガールの書簡集を購入したことがありました。この方の娘さんは小説家
中島京子さんですが、この時に高校受験したのは、この京子さんのようです。