「図書」2月号より 2

 岩波「図書」連載のお楽しみはいくつかありますが、その二つ目は「無地のネクタイ」
という丸谷才一さんの連載であります。今月のテーマは「松竹の歌舞伎」についてです。
 丸谷さんはほかにも連載をお持ちなのかもしれませんが、当方は承知しておりません
ので、毎月文章で眼にすることができるのは、この「図書」連載のみです。そういえば、
これの前に連載していたのは、朝日新聞の「袖のボタン」でありました。朝日新聞から
岩波書店かよとつっこみがはいりそうでありますが、まあ和田誠さんと一緒に引っ越し
てきたのですからよろしでしょう。
 2月で連載も10回目となります。今回は歌舞伎を話題としているのですが、丸谷さん
は「袖のボタン」でも東京 歌舞伎座の立て替えに関して文章を残していました。
(現在、進行している歌舞伎座の建て替えが丸谷さんの提言を受け入れたものとなって
いるのかどうか、興味のあるところです。女性のトイレの設置数についてもあったよう
に思いますが、それは大丈夫でしょうね。)
 今回は「船曳建夫さんの『ロンゲスト・グッドバイ』といふ近頃出色の歌舞伎論」を
とりあげて、家と芸の継承と襲名を論じています。
「 この東大教授はさらいつづけて、名跡の襲名には、身内はもちろん他の役者たちの
認定が必要だけれど、しかし襲名の決定権を持つのは歌舞伎界の支配者である松竹だと
いふ。どうやらその通りらしい。・・・
 たしかに襲名の口上を聞いてゐると、かならず、『松竹会長の御推薦を得て』とか
『おすすめを受けて』とか挨拶がはいる。観客としては、めでたい儀式のなかにとつぜん
業界政治がはいりこむやうでいささか白けるが、しかしこれが現実なのだろう。・・
 もしも松竹の巧妙にして老獪な運営がなければ、この藝能はとうに亡んでゐたかも
しれない。松竹以外の企業にはとてもできない仕事だったらう。」
 襲名がそうであれば、家と藝を継承する役者の家の結婚までも松竹会長がくちばしを
いれているかといえば、「会長のお許しを得て結婚とあいなりました」となっていない
のは、最近の若い役者の行動を見ておりましたらわかるとおりであります。