ジャケ買い 7

 あとすこし金原ひとみさんの「TRIP TRAP」についてであります。
 この小説集に収録の作品は、書かれた順ではなく主人公の成長にあわせて掲載
されています。一番最初の作品は15歳不登校の中学生で、次の作品は高校中退した
17歳とありますので、その二年後くらいでしょうか。この二作が奔放な青春を描い
ているのですが、そのあとの四作は、主人公は特定の男性と生活をしており、最後
の二作では子までなしています。
 すこし前まであんなにも不安定で非行少女のようであったのに、きちんとした
男性と結婚生活にはいって、めでたしめでたしというのが、この小説集なのかな。
 新聞読書欄の辻原登さんのコメントによると、
「『TRIP TRAP』 小説は何といっても、金原ひとみの天性とも思える言語センスが
群を抜いていた。なんとも過激な、しかし心鎮まる一人の女の成長物語だ。」となる
のですが、たしかにたいへん早熟な人でありますから、三十歳を前にして成長に
ついての作品を書いたとしても不思議ではないのですが、それは親の世代には安心を
もたらしますが、同世代からはどのような評価を受けているのでしょう。
(もともと金原さんの同世代の人達は本など読まない人達でありますので、なかなか
伝わってきません。)
 辻原さんの評にある「天性とも思える言語センス」というのは、そうなのでしょう。
特に、「沼津」という作品にある若い人の会話のところが、いかにも若い人たち
会話の雰囲気が表現されていました。バスとか電車にのって、高校生の会話を聞いて
いるようなリアルさがありました。もともと中身がない話を大きな声でするという
のが、いまどきの高校生であります。そうした中身のなさから、どのような作品を
生み出すか、結局のところ作者自身の等身大の人物を描いていくしかないのであり
ましょうか。
 若くしてデビューした大江健三郎さん、村上龍さんが、今にいたるまで発表し続け
ています。作者にあわせて読者も年齢を重ねているのですが、金原ひとみさんも、
そのような幸せな作家生活をおくることができるでしょうか。