朝日ジャーナル 82 5

朝日ジャーナル」のブックガイドを紹介するということで、記しておりますが、
結局のところ、前田愛の評論のところでとまっております。この「都市を描く」と
いうリストのベースにあるのは、前田愛「都市空間の文学」(筑摩書房)であり
ます。
 「都市を描く」というなかでの後藤明生というのは、どういうことかといえば、
同書のなかには、次のようにあります。
「団地小説と呼ばれる後藤明生の一連の作品は、郊外のマンモス団地に漂着した
無名の中年男がその主人公にえらばれている。・・・
 団地の一室に籠居する習性をもった後藤明生の<無名氏>は、都市の内部を
自在に歩きまわり、その隠された襞のかたりをしだいに明らかにして行く、これ
までの都市小説の主人公からすれば、まったく型やぶりの存在といわなければ
ならない。しかし、『現在生きている場所としての<住居>に、こだわ』りつづ
けることを選んだ後藤明生は、3DKのささやかな空間をエロス的な憩いとやすら
ぎの空間として設定したわけではなかった。」
 後藤明生は32年生まれでありまして、前田愛さんと同年になります。昨日の
トリオである黒井千次さんも32年、古井由吉さんだけが37年うまれでした。
前田さんの世代というのは、結婚してからの新生活を団地でスタートさせると
いうのが、最先端のスタイルでありましたでしょうか。
 原武史さんは、団地内にある小学校生活を「滝山コミューン1974」として
書いていますが、そうか原さんの父の世代というのが、後藤明生たちであるの
か。