杉浦康平のデザイン6

 当方が杉浦康平さんのデザインを一番身近に感じたのは、70年代の初め
河出書房の出版物を担当していた時代です。一番売れたのは、高橋和巳
「わが解体」でしょうか。当方は、このように深刻な本は好みではなかった
ので購入することはなしでありました。この「わが解体」は、白い函にはいって
おりまして、杉浦さんの白シリーズともいうものです。
 昨日に書影をかかげた新鋭作家叢書は、ロールシャッハテストのような
左右対称の迷彩図が函の全面をかざっています。すべての本をもっている
わけではないのですが、たぶん全18巻はみなすこしずつ図柄がことなるはず
です。本体の表紙についても、すこしずつ紙の色がちがっていたように思います。
このシリーズの奥付けには、「装本」として「杉浦康平+中垣信夫+海保透」
とありまして、「Carpenter Center for the Visual Arts」によるとあり
ますので、ロールシャッハのような図柄は、ここからとったものでありますね。
 この「新鋭作家叢書」は、二段組ですが、ページ数は本を開いて左がわに
2ページ分まとめて掲載され、右がわには、ページがはいっていないという
ものになっています。最初に購入したのは「笹まくら」が入った丸谷才一の巻か、
「夏の砦」の辻邦生のものでしたが、特に「夏の砦」は、作品とこの刊本の
イメージが重なっています。
 河出書房は、70年代前半をリードする出版社となるのですが、それには杉浦
デザインも一役買っています。平凡社新書の臼田さんの記するところによりますと、
次のようになります。「デビュー以来、機会あるごとにブックデザインに力を
注いできた杉浦だが、その本格的展開は70年代以降だと自ら公言していることが
多い。それは70年に入って、『表紙は顔である』とする雑誌デザインと響き合う
ように、書物のエッセンスを外にあぶりだす手法を確立したこと、本文組から
外回りへとトータルにかかわりながら書物に固有の三次元性を映しだす新たな
方法論を自家薬籠中のものにしたことによる。」
 「杉浦の成熟した問題意識が投影された代表作は、埴谷雄高の『闇のなかの黒い
馬』(河出書房新社 1970年)だろう。」
 このへんから黒のシリーズが始まります。