「みすず」読書アンケート2

 「みすず」読書アンケートの常連寄稿者というのは、一番「みすず書房」らしい
文化人ではないかということで、森本達雄さんと村上光彦さん名前が浮かんできま
した。このお二人は、ともに当方がもっているものでは一番古い「みすず」72年
1月号の「読書アンケート」にこたえておられます。
みすず書房」とこのお二人をつなぐのは、片山敏彦さんであります。
みすず書房の最初の出版物は片山敏彦さんの「詩心の風光」(昭和21年刊)であり
ますが、この本の序の書き出しは次のようになります。

詩心の風光

詩心の風光

「戦争は過ぎた。歴史の深刻な動乱は昨日の悪夢のようである。しかもその大きな
余波はまだわれわれを揺すぶっている。眼前には廃墟と新しい多くの墳墓と社会
革命の相があり、内心には哀しみや驚愕や焦慮の痕が数多く残り、飢えや寒さの
傷口もまだ癒えない。」
 片山敏彦さんという人が戦中から戦後すぐにかけての若い人たちに大きな影響を
あたえたことは、いまではほとんど実感としてつたわってこないのですが、当時の
青年たちの多くの人が、片山敏彦さんとの出会いについて記しています。
 小沢書店から「地下の聖堂 詩人片山敏彦」という本を刊行している清水茂さんは、
この本のあとがきで次のように書いています。
「 敗戦後の混乱のなかに投げ出されて、自分の精神生活の航路を導くべき羅針盤
もたない一つの生命が、なにか探りあてようとしていた。そして、見つけたのである。
闇のなかで最初の光は『詩光の風光』という名まえを持っていた。・・・・
 片山先生の仕事に共感をおぼえた者は、誰でもそうだと私は思うが、あの時、
私も自分の魂を光の矢で射抜かれたのである。・・この出会いの性格が私のすべて
を決定したと言っても、私自身にとっては決して言いすぎではない。」
 ということで、72年1月号での「森本達雄」さんの回答です。
 ・ 「橄欖のそよぎ」 片山敏彦 みすず書房 71年
  刊行中の著作集の一巻を編集するため、この夏から先生の著書のほとんどを再
 読しながら、東洋と西洋の魂のあいだに相呼応する精神のユニテにますます心ひか
 れる思いです。
 ・ 「仏像 心とかたち」 望月・佐和・梅原 NHKブックス 68年    
 ・ 「世阿弥集」(筑摩書房 日本の思想 70年