中公新書の森3

 「中公新書の森」には、「思い出の中公新書」アンケートというのがありま
す。179人の方が、それぞれ3冊の本をあげています。いまとなっては、
ブックガイドの定番となっている長田弘さんの「私の二十世紀書店」が岡崎武志
さんと岩波新書編集長さんのお二人があげているのですが、これなどもっと多く
の人があげていてもいいのではと思ったりします。小野二郎さんの「ウィリアム・
モリス」も永江朗さんと樺山紘一さんがあげていました。この本は、このあと
中公文庫にもはいったのでありました。

 この本があがっていてもいいのにと思うのは、田中克彦さん「草原の革命家
たち」でありますね。この本のあとがきには、次のようにあります。73年晩秋
の文章です。
「中ソの対立がモンゴルに落とすかげはいよいよ重苦しいものになっている。
モンゴルにとって、ほとんどネガティブな意味しか持たない、この醜悪な相克の
方に、モンゴルが見いだすべき友人は朝鮮であるという認識に著者はいつの間に
か近づいている。(「朝鮮民主主義人民共和国」とか「大韓民国」とか、これら
民族分断加担的・体制的用語を用いないのは、同じ朝鮮語を語る一つの民族ある
のみであるという考えが信念としてあるからである)。伝統的「中ソ(=清露)
抗争」という図式の中にはめこまれたモンゴル民族の運命を変える力を持てるの
は、朝鮮民族をおいて他にないという立場からみれば朝鮮民族ナショナリズム
は大いに煽られねばならない。」
 それにしてもはてなキーワードに「田中克彦」さんがないのは、実に不思議で
あります。

 まさか、この本をあげている人はいないだろうと思っていたら、あがっていて
驚いたのは「本と校正」長谷川鉱平さんであります。あげているのが、苅部直
さんですが、この組み合わせにもびっくりです。
 長谷川鉱平さんの名前を知ったのは、法政大学出版からでているハーバード・
リードの著作の訳者としてであったように思います。この方は、優れものの校正
者であるということをどなたかが紹介していて、そこには、数字の校正のときに、
数字のリズムが狂っているので?をつけたら、著者がそれを確認して、その数字が
違っていたことがわかったというような話でした。この校正についての話は、
中公新書法政大学出版局からでているものにのっていたように思います。
 ちなみに、苅部直さんは、この本の紹介を次のようにしています。
「 単なるハウトウ物に陥らない、ゆったりした実用性が、中公新書の持ち味の
一つだと思う。その極北と言える一冊。出版社や新聞社が、この本を新入社員
全員に配るようにしたら、きっと素敵だろう。」

 今は、中公新書2000点突破を記念して、あちこちの書店でフェアをやって
いるようですが、この新書もご多分にもれず品切れが多いようです。アンケート
にあがっているものにも、相当の品切れがありそうです。