埴谷雄高の肖像 5

 埴谷雄高さんが女性編集者の書いた本に序文を寄せていて、それが本の帯に引用
されていました。
「 女性編集者の回想のなかで、男性作家の男性性が記録されるのは必ずしもない
ことであるまいが、それらの回想として田邊記録は貴重な位置を占めている。・・
私及び私たちの世代は、佐藤春夫の不気味性、野間宏の不器用性とまったく違った
かたちのそれぞれに特有な仕方で女に接するところの『共犯者』であることをも、
田邊園子のこの回想は深く鋭く自覚させてくれるのである。・・
 男性の鈍感な醜劣性と自己克服とそしてその文学作品の品位の内実について
貴重な示唆を与えてくれた田邊園子に私は感謝する。」

 文芸誌の女性編集者というと、どのような人を思い浮かべるでしょうか。昨日に
記しました「宮田毬栄」さんなども、その代表的なお一人でしょうか。
埴谷さんの文章にある「田邊園子」さんという方は、その昔に、坂本一亀さんが編集
長をつとめていた時代の「文藝」の編集者でありました。まだ若い女性編集者が、
作家を相手にどのような働きをしたかということが、田邊さんの著書「女の夢 
男の夢」(作品社)にはでています。
 とくにぎょっとするのは、「青年の環」を書いていた時代の野間宏さんであり
まして、この田邊さんの文章を先に読んでいましたら、この大作を読もうなんて気には
ならなかったかも知れません。