「髭のない猫」3

僕の描き文字

僕の描き文字

 平野甲賀さんの「僕の描き文字」みすず書房をやっとこさで入手しました。
これまでは、平野さんの本は、でたらすぐに購入することにしていたのですが、
やはり、みすずからというのに違和感を感じて手がでなかったのでしょう。
(もっとも、部数の関係もあってか値段も高いですからね。)
 この時代に、この本をだそうという版元が、みすずしかないのでしょうか。

 この「僕の描き文字」のなかで、一番最初に目を通したのは、長谷川四郎さんに
関する物でした。
 「ぜひ僕にやらしてくださいとお願いする本だって、僕にもある。だいぶ
 以前のことになるけど『長谷川四郎全集』全16巻がそうだ。
 長谷川四郎のことは『随筆 丹下左膳』という奇妙なタイトルの薄い本を
本屋で見つけて初めて知った。その後、晶文社の装丁の仕事をするようになって
 『長谷川四郎作品集』全4巻が刊行されるのを知り、頭から読んだ。・・
 この『長谷川四郎作品社』の装丁は御子息の元吉君だったと思う。
 貼り函いりで、函の背から平にかけて大きな手形がバシッとついていて、
 実はあんまり感心しない(ごめん)ものだった。
  だけどこの四冊は僕の本棚の特等席にいれてあって、いずれ僕がつくり
 かえるものだとにらみつづけていたものだ。

 この本のなかにも「髭のない猫「についてのくだりがありました。

「 リンジロウさんの絵は、長谷川四郎さんが住んでいた桜上水のお宅で
みたことがある。10号くらいの油絵で、椅子の上にまるまった猫がくすんだ
色で描いてあった。
 『 おい、この猫には髭がないのだよ。』と四郎さんはうれしそうに
笑った。『描き忘れたんですかね。」と聞くと「いやあ』と白髪頭をボリボリ
掻いた。」

 四郎さんのところには、猫がたくさんかわれていて、りん二郎さんのところの
猫は、四郎家からもらわれていったようですから、四郎さんのお宅に、髭のない
猫の絵があってもいっこうに不思議でないのですが、四郎宅で平野さんがご覧に
なった猫の絵は、洲之内コレクションとなって、宮城県立美術館にあるものとは
ちょっと雰囲気がことなるようです。平野さんから、「くすんだ色」でといわれ
た猫は、どのような絵なのでしょうか。